大塚家具のお家騒動もそうだったが、正直、どうでもいいと思っている話でも、他人のケンカには、知らず知らず目が行ってしまう。今週の週刊文春は、週刊新潮から“売られたケンカ”への反論で3ページを費やしている。


『三笠宮彬子女王の威を借りて「週刊新潮」のひどい嘘』という記事がそれだ。前週の新潮のタイトル『「寛仁殿下」が「信子妃」に家庭内暴力というひどい嘘』の言い回しをそのままに使って逆襲をしている。


 ことの発端は文春が6月、『三笠宮彬子さま・瑶子さま「実母信子さま追放」6・8クーデター計画』と銘打って、故・寛仁さまの娘たちとその母・信子さまの確執を報じた記事だった。それによれば、信子さまは夫の故・寛仁さまからのDVで「ストレス性ぜんそく」を患うようになってしまったが、彼女に反感を抱く娘たちはさらに殿下の死後、三笠宮家から信子さまを“追放”する画策を始めたという。


 これに対し、新潮は前号で彬子さまの単独インタビューを載せ、そもそも寛仁殿下によるDVなど存在せず、信子さまの被害妄想に周囲が振り回されているだけだ、と真っ向から文春報道を否定。すると今週の文春は、寛仁さまが生前、信子さまの行動をなじり、「幽閉」などの罰を命じた文書が多数残っていることや、信子さまの「ストレス性ぜんそく」を裏付ける主治医の診断が存在する、などと猛然と噛みついたのだった。


 文春・新潮双方とも自説には自信があるようだが、第三者の目に真偽のほどははっきりしない。ほとんどの読者には、宮家で激しい母娘の対立があるのだな、という以外、とくだん何の感想も浮かんで来ない話である。にもかかわらず、一旦雑誌を手に取れば、この手の記事に目は吸い寄せられてしまう。我々大衆の心根に巣食っているこの手の“ゲスな覗き見根性”こそ、雑誌メディアを支えてきたものだと改めて実感する。


 今週は安保法案の衆院での強行採決という出来事があった週だった。ニュース映像では、議場内や国会前の人々の感情の高ぶりが映し出されたが、何もかもがあまりにも“予定通り”進んでゆき、雑誌の誌面にはもはや“昂り”は感じられない。


 週刊現代は伊藤忠前会長で中国大使でもあった丹羽宇一郎氏の特別インタビューを載せ、丹羽氏はそのなかで安倍首相の暴走に「もう少し冷静に」と釘を刺している。ポストは漫画家の小林よしのり氏による『自民党の劣化はもう止まらない』というさらに激烈な与党・政府批判を掲載した。「(自民党は)もはやネトウヨと同等にまで劣化した」「(米国に従属する“属国化”を進める安倍首相は)真の保守ではないし、愛国者でもない」と辛辣な言葉が並んでいる。


 しかし、前週、政権批判に舵を切ったかに思われた文春と新潮は、委員会強行採決と発売日が重なるタイミングもあって、もはやこの話題はスルー。むしろ国立競技場問題を大きく取り上げて、森元首相を主たる標的として政府を叩いている。


 世論の激高を受け、安倍首相は急遽、競技場プランの白紙化を決めたが、そこには安保法制と競技場問題の2つの逆風が重なっては持ちこたえられない、という判断があったとされている。安保よりも競技場問題、という文春と新潮のスタンスは、まさに政権の“目くらまし戦術”を側面支援するもののように見える。


 安保法制の審議は、次に参院がその舞台となる。こちらも形式的な“議論”を経て採決される流れは明々白々で、あるいはもう反対世論も尻すぼみになってゆくのかもしれない。何ともやるせない話である。 


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三山喬(みやまたかし)  1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。