ロボット、人工知能(A.I.)、自動運転、ドローン……。今や、あらゆる分野で“機械化”は一大トレンドになっている。スバルの自動ブレーキ「アイサイト」ほか、すでに実用化されているものも多い。そういえば、家にある「ルンバ」も掃除ロボットだ。面倒なベッド下も、文句を言わずにきれいにしてくれるのがありがたい。


 では医療分野は? といえば、今、最も注目されているのは、何といっても手術支援ロボット「ダビンチ」だろう。


 2000台を超えている米国に比べればだいぶ少ないが、日本でもダビンチの導入台数が200台を超え(国別では世界2位)、普及期に入ってきた。


 このダビンチを主役に、日本の手術の現状と未来を描いたのが『日本の手術はなぜ世界一なのか』だ。


 ダビンチを使った手術のメリットは多い。手術器具を〈狭い領域で人の手よりも器用に動かせて、可動域も大きい〉。機械化のメリットのひとつである「人間にできないことができる」のだ。加えて、〈手ブレ防止機能もついており、細かい作業を安全に行なうことができる〉。人間ならではのミスも防げるという訳だ。


 ダビンチが普及している米国では、前立腺がんの90%以上、婦人科手術70%くらいがロボット手術になっているとか。〈ダビンチのない病院には患者さんが来ない〉ほどだという。


 問題は日本では1台当たり3億円以上という、そのお値段。このため、ロボット手術は200万〜300万円(手術内容により異なる)など、どうしても高価なものとならざるを得ない。ただ、日本では12年から前立腺がんの全摘出手術で保険適用された。ロボット手術の有効性を示すデータが集まれば、これから保険適用される領域は増えてくるだろう(国民医療費は増えて大変だろうけど)。


 著者は第5章で、日本の医療のさまざまな問題に言及する。


 そのひとつが医師選びのススメ。「病院ランキング」などの特集をキラーコンテンツとしている週刊誌は少なくないが、著者は〈病院探しよりも医師探しを重視した方が、結果的にその患者さんにとって、いい治療が受けられる可能性が高い〉という。〈手術での成否やその後の経過に影響するのは、病院の差というよりも、外科医の技量差であることが多いからだ〉。


 そのうえで、〈外科医の技量をもっと正確に評価して、公開し、患者さんが「私はあの先生の手術を受けたい」という意識で医療を選択できるシステムが望ましい〉という。


 きちんと客観的な情報に裏付けられた評価システムを医療界自らが構築できれば、患者にとって非常に有用だろうけど、学閥や師弟関係のしがらみといった医療界の複雑な事情を考えると、相当ハードルが高そうだ。最近、聖マリアンナ医科大学病院で「精神保健指定医」の不正取得が問題になったけど、同じような問題も起こりそうだし。 


■医療界にも“機械との競争”


 ロボット手術は、今も進化を続けている。〈腫瘍の場所や、どこにどういう血管や神経が走っているかを可視化して、リアルタイムでそれを見ながら手術をする〉という「ナビゲーションサージャリー」という手法も普及しつつあるという。


 将来、〈オートマチック機能が搭載されるようになれば、操作ユニットから手を離しても、ボタン一つでロボットが勝手に腫瘍を切ってくれる〉という“医者いらず”の時代もやってきそうだ。


 手術をロボットがやってくれる時代になれば、「手先が不器用だけど、コミュニケーションがやたら上手」という新たなタイプの名外科医(それを外科医というかどうかは別にして……)も出てくるかもしれない。今なら、絶対に手術してもらいたくないタイプの外科医だ(笑)。


 医療の分野でも“機械との競争”が始まりつつある。(鎌) 


<書籍データ>

『日本の手術はなぜ世界一なのか』

宇山一朗 著(PHP新書 820円+税)