7月9日(日)~7月23日(日) 愛知県体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」など)


 序盤に横綱・大関の休場、途中復帰と土俵がざわついた名古屋場所だったが、大関候補3人のうち豊昇龍が優勝で昇進に花を添えた。また、我らの「伊之助」が一世一代の醜態を2度もさらけ出して引退勧告が必至となった(と思いたい)。


(優勝インタビューで喜色満面の豊昇龍)


横綱と大関の顔に泥を塗った伊之助の大醜態


 3日目の結び、横綱照ノ富士と翔猿(前頭筆頭)の一戦。動き回る翔猿を捕まえた横綱だが、相手のまわしが緩んで得意の投げを打つことができない。手を変えて小手投げにいったが翔猿は頭を付けてさらに抵抗する。そして、無理な体勢から寄り切ろうとした瞬間、翔猿は横綱の左腰に密着しながら足をかけて前に進み、横綱を寄り切った。照ノ富士は傷めている膝では踏ん張れず、腰から砕けそうになって土俵を割ってしまった。


(3日目/照ノ富士―翔猿)


 行司の式守伊之助は、伸び切った翔猿のまわしに対して終始傍観。横綱の攻め手を封じたばかりか、休場に追いやってしまった。伊之助の失態はこれだけではない。8日目、休場後の4日目から土俵に上がった新大関の霧島は翠富士(前頭3枚目)の挑戦を受ける。立ち合い後、約1分が経過した。霧島のまわしが緩んだと見た伊之助が待ったをかける。見た目には締め直すほどのことはなかったが、3日目で懲りた伊之助は、両力士の背中に手をかけ、軍配の紐を口で加えて(軍配を)肩にかける。


 そこまでは颯爽としていたが、そこからが醜態第2章の始まり。「待った」のあと1分が経過。霧島の固く締まったまわしの締め直しに手こずり、肩にかけていた軍配を土俵に落としてしまった。それを拾う余裕もなかったのか、命の次に大切な軍配は土俵の土にまみれたままになった。同時に呼び出しが土俵に上がり助勢に駆け付けた。この時点で「待った」から1分が経ち、再開したのは3分半後。両力士ともに余計な邪魔が入ったという表情を見せ、戦意を失いつつあった。館内に白けムードが漂い始める。


「日ごろスクワットで鍛えているから体力には自信がある」などと嘯いていたこの男の実力がいかんなく発揮された。力士の邪魔になること数えきれず、土俵に転げ落ちたことは2度や3度ではきかない。軍配差し違えは言うに及ばず、「ハクッホウーッホウ(白鷗)」、「エンドーッホウ(遠藤)」など珍妙な節回しの数々。ここまで嘆かわしい行司も古今東西見たことがなく、不世出の珍行司というほかない。定年まであと僅からしいが、腰に短刀を戴いている意味をよくよく考えるべきである。


(8日目/霧島―翠富士)


ユルふんの翔猿にも鉄槌を


 伊之助も悪いが、わざと緩く締めた翔猿も看過できない。この力士のほかにも宇良など「ゆるフン」力士はいるが、翔猿は目に余る。毎場所最低1回はまわしの緩みで勝ちを拾っている印象がある。埼玉栄から日大に進んだ相撲エリートがこういう卑怯な真似をするというのが2倍嘆かわしい。昔からある卑劣な手口で、某名横綱も晩年はこの手を使ったとの指摘はあるが、立ち合いとともに相撲浄化の一環として注意喚起してほしい。来場所に「ユルふん」で出てきた力士がいて勝ったら、不戦敗にしてもいいくらいである。


大関レースは「1当2落」


(14日目/豊昇龍―若元春)


 本筋と関係ない話はこれくらいにして、今場所の楽しみは3関脇の大関とりだったが、結果的には豊昇龍1人が勝ち抜けた。序盤・中盤・終盤の各5日間を4勝1敗で乗り越えれば昇進ラインに届く3人だったが、この星取りペースを死守したのは豊昇龍だけだった。若元春は中盤に盛り返したが、得意の後半戦で息切れ。大栄翔も自ら最後のチャンスと腹を括ったが、その覚悟が裏目に出て緊張しまくった。2人とも最後は重圧に負けた。14日目に2人して立ち合いに変化し、八角理事長から叱責されてしまった。この取り口は次の場所で好成績を上げた際に大きな汚点になるかもしれない。


 いつもは、毎場所に最低1回は「立ち合い変化カード」を切るのが豊昇龍だった。しかし、今場所はそれを封印し、最後まで正々堂々の勝負に徹した。まさに、信は力なり。人間至る所に青山あり、である。


盛り上げ男 錦木と伯桜鵬


(初の三賞でガッツポーズの錦木)

 

 今場所を盛り上げたのはこの2人。


 錦木(前頭筆頭)はたしか昨年は十両でくすぶっていた時期があるはずだが、ここに来て相撲に重みが増している。かつての名大関魁皇を彷彿とさせる怪力で、初日に照ノ富士を破って先場所の連勝記録を伸ばして波に乗った。後半、優勝の色気が出て4連敗したのは残念だったが、来場所は初の三役(小結?)が見えている。


(三賞表彰で豊昇龍と談笑する伯桜鵬)


 新入幕の伯桜鵬(前頭17枚目)は幕尻で11番勝ち、最後まで優勝戦線に残った。高校横綱、実業団横綱はダテではない。それどころか、髷を結う前の三役も視界に入る。組んでよし、押してよしの万能型は今場所同じく11勝した琴ノ若と似ている。来場所は前頭10枚目あたりが予想される。上位と当たる回数はまだ少ないはず。今場所のような活躍が続くのではないか。


 三賞は敢闘賞が6人(豊昇龍・琴ノ若・北勝富士・豪ノ山・湘南乃海・伯桜鵬)、殊勲賞が錦木、技能賞は伯桜鵬が敢闘賞とダブル受賞した。大盤振る舞いの感はあるが、逸材がまた増えたということでもある。横綱・大関の不在に慣れた角界ファンにとって、また楽しみが増えた。(三)