このところ依存症に関連する一般向けの書籍が相次いで発売された。
依存といっても、酒やタバコ、薬物といった「物質依存」、ネットや買い物、ゲームなどといった「行動性依存」(行為依存、プロセス依存)、親子や恋愛関係といった特定の相手との関係に依存する「共依存」などさまざまなタイプがあるが、『ギャンブル依存』は行動性の依存であるギャンブルへの依存にフォーカスした1冊だ。
ギャンブル依存といえば、少し前に大手製紙会社の御曹司が海外のカジノで100億円を超えるカネを失って注目されたが、個人的にもギャンブル依存に苦しんで命を絶った知人がいたこともあり、関心を持ってきた分野である。
調査時期や調査方法に違いがあるため一概に比較はできないものの、本書に紹介されている日本のギャンブル依存が疑われる人の数〈約320万人(生涯を通じて)〉や、有病者割合の数値〈3.6パーセント〉は世界でも非常に高いレベル。
「謹厳実直な日本人」のイメージを覆す数字である。〈日本は世界一のギャンブル依存大国〉なのだ。
背景のひとつと言ってもよさそうなのが、パチンコ台、パチスロ台などの〈電子ギャンブル機〉の圧倒的な台数だ。2016年の設置台数で日本は457万5500台で、2位の米国86万5800台以下を大きく引き離している。
著者は〈やり玉に挙げても意味はない〉としているものの、公営ギャンブルや宝くじなども含めて、日本はギャンブルへの敷居が低い。
〈都会や地方を問わず、学校の近くだろうが、病院の近くだろうが、大通りに堂々とギャンブル施設がある。(中略)そんな国は、世界を探しても、おそらく日本ぐらい〉という〈国家的疑似カジノ〉の環境は、ギャンブル依存の多さと関係しているはずだ。
本書にはギャンブルに依存し、生活が壊れていくさまざまなケースが登場するが、多くは高校生や大学生など、若いうちにギャンブルの世界に入るきっかけが生じている。〈ギラギラとした都会の生活〉のなかで〈未熟な学生が「堕ちて」いく〉のだ。
■だれもまともに研究してこなかった
アルコール依存症やニコチン依存症のように、治療薬が存在する依存症もあるが、今のところギャンブル依存症に治療薬はない。
治療に保険適用がされるようになったのは2020年とごく最近。ギャンブル依存症について専門性を有する医療機関も限られている(従来から、自助グループや回復施設での治療に一定の実績がある)。
しかも、〈「嗜癖」と呼ばれるネットやゲーム、ギャンブル、買い物などの行動性の依存は、どこからどこまでが治療対象になるのかが曖昧だ。(中略)治癒(というよりも緩解)に向けて、標準的なロードマップがあるわけではない〉。
本書に登場する、東京大学の米本昌平客員教授によれば、そもそも〈ギャンブル依存に至る実態については、だれもまともに研究してこなかった〉のだという。
多くの病気では、早期発見・早期治療が推奨されることが多いが、ギャンブル依存の場合、それも難しい。初期段階ではごく普通に社会人生活を送っている人も珍しくない。
有名企業の社員や公務員なら、消費者金融などからの借り入れもしやすい。借金返済のため会社を退職に追い込まれたり、督促が来たりして、はじめて家族に判明するケースもある。
新手のギャンブルとしては、IR(統合型リゾート)の一部となるカジノが話題だが、警戒されているだけに慎重に運営される可能性もある。個人的に気になったのは本書で詳述されている「オンラインカジノ」だ。
無店舗型で、海外で合法的に運営されているものは、運営側も遊ぶ側も、現状では罪に問われていないという。まさに〈釈然としない〉状況である。実態が見えにくいだけに、怖い存在だ。
あらゆる依存(症)がそうだが、本人や直接の関係者以外はどこか「自業自得」と考えがちである。
わが身を振り返れば、海外カジノやパチンコ・パチスロ(厳密には遊戯)、競馬など、いくつかのギャンブルの経験はあるが、大損した記憶ばかり。「博才」がないのだろう。当然ながらギャンブル依存には陥らなかった。
だが、本書のケースのように、何かしらの理由で大儲けしていれば、依存になってしまったのではないか? そう考えると、誰しもギャンブル依存に陥る可能性を秘めている。
推計値の320万人は見過ごせない規模である。治療が保険適用になったのを機に、ギャンブル依存大国・日本で病態や治療法の研究が進むことを期待したい。(鎌)
<書籍データ>
『ギャンブル依存』
染谷一著(平凡社新書1012円)