札幌・すすきの頭部切断殺人事件の発生から早くも1ヵ月になる。事件が猟奇的だったからビッグモーター事件とともに多くの人が関心を持った。


 なにしろ、被害者の首が切断され持ち去られた、という異常性に加え、ホテルの室内のベッドは使われた形跡がない。さらに浴室で殺害されたと見られているが、飛び散ったはずの血は洗い流されたと見られること、室内には犯人はもちろん、被害者の指紋はなく、拭きとられたようだったし、被害者の衣服、スマホがなく、被害者のスマホは殺害されたと思われる時刻に電源が切られていることなど、徹底して被害者の身元をわからないようにしているなど不審な点が多かった。


 加えて、警察発表では、一緒にホテルに入った人物を「女性のような人物」と表現し、「女性らしい声で“先に出る”」とフロントに電話があったこと、ホテルに入るときと出るときでは服装が違っていたことなども挙げられる。たぶん、警察は一緒にホテルに入り、出た人物を特定しようと試みたが、連れの人物がつばの大きい帽子をかぶっていて、防犯カメラではハッキリと断定できなかったのだろう。


「女性のような人物」「女性のような声で」はなく、きちんと「女性と思われる人物」「女性の声で」と言えば、疑惑は深まらなかっただろう。それとも新聞、テレビが「まさか女性が殺人犯ではなかろう」と勝手に解釈して、「らしい」とか「ような」という形容詞をつけたのだろうか。


 ついでに言えば、連れの「女性らしい」人物はホテルに入るときと出るときの服装が「黒から白に代わっていた」なんて懇切丁寧に伝えていた。これは当たり前だろう。入るときの服装は被害者を刃物で刺したときに飛び散った血が衣服に付くから犯人は着替えたのだろう。計画的な殺人だから、そのくらいは用意するはずだ。


 事件発覚後、警察は「被害者は恵庭市に住む会社員、浦仁志さん、62歳」だったと発表した。夫人から捜索願いが出ていたことから意外に早くわかったそうだ。週刊誌なら即座に被害者の周辺の人たちに、浦さんという人物の家族構成やどういう人なのか、評判はどうなのか、友人関係やなにかトラブルを抱えていなかったかなど、犯人に結び付きそうな情報を取材するように指示するだろう。


 案の定、週刊誌から被害者の様子が伝えられた。新聞は地元のブロック紙が報じていたが、大手紙は総じて詳しく報道しない。被害者の人権が大事だということだろうが、被害者の情報が得られれば、警察への情報提供が増え、犯人逮捕に結び付くはずだ。私の目には、昨今の新聞には事件記者がいなくなったように映る。おかげでテレビは猟奇的な事件としてバラエティ番組で盛んに取り上げる始末だ。


 だが、事件から4週間後、警察は容疑者として田村瑠奈29歳、父親の精神科医、田村修59歳を逮捕したと発表。続いて母親の田村浩子60歳を逮捕した。報道でわからないのは本当に瑠奈容疑者1人で殺害し、首を切り取ったのか、血を洗い流し、指紋を消したのか、という点だけだ。彼女がそこまで冷静に1人で行なったのか、別の部屋に父親がいて、首を切断したのではないか、という点だけだ。


 ともかく、報道に接して、どうしてこのような事件が起こったのか考えていたら、その晩の夢の中で事件の概要がわかった。むろん、夢の中の話である。


 私がわかった、というのは事件の発端だ。おそらく、被害者である浦氏による暴行、つまりレイプだ。62歳の浦氏は女装が趣味で、同好の人たちの集まりでは有名だったようだ。事件当日の夜、恵庭市から札幌・すすきのに車で出掛け、女装してディスコで踊っていたという。


 これっておかしくないだろうか。60過ぎの男が女装の趣味はともかく、ディスコで「アラエッサッサ」なんて踊っているのを聞いたら、反吐が出る。いや、情けなくなる。10代、20代の若者が徹夜で踊り明かすのは大いに結構だ。若者の特権だし、青春だろう。だが、30代になれば、妻子との生活を第一に考える。40代になれば、サラリーマンなら自分の出世がどこまでか見えて来る。それでも子供は大学に進んでいるだろうし、一層、妻子のために一生懸命働こうとする。


 60代になれば、定年後の生活を考えるだろう。ところが、62歳にもなる被害者は妻子がいるのに、夜な夜なディスコで踊っていたらしい。妻子はどう思っているのか知りたくもなるが、単にディスコで踊っているだけではないだろう。ついでに若い女性に近づいてホテルに連れ出していたりしていたのではないか。瑠奈容疑者はそうしたレイプ被害者の1人ではないかという気がする。


 一方、瑠奈容疑者に対してはテレビに登場する識者からサイコパスではないかとか、精神疾患があるのではないか、という説が飛び交っている。だが、私には精神異常とは思えない。精神異常なら精神科医である父親が診るだろうし、あるいは、他の精神科医に相談し、診察、治療をさせるだろう。彼女はただ、他の人とは違う性格の人だろうと思う。


 小学生・中学生時代や高校時代は「目立たなかった」とか「不登校だった」とか伝えられている。おそらく、「起立性」の問題だったと思う。例えば、学校で「この程度の方程式がわからないのか」などと言われると、とたんに「数学は嫌い」「学校に行きたくない」と言い出して不登校になってしまうのだ。家で猫と遊んだりして、母親が学校に行きなさいと言っても、「いやよ、あんなとこ、絶対に行かない」と言い出す。


 逆に、「この方程式はこうしてこうなるんだよ」などと懇切丁寧に教えられると、教えてくれた人を尊敬したり、好きになったりするタイプではなかろうか。扱いが難しいタイプなのだ。不登校だったというのは「起立性」という症状、いや、問題だったのではなかろうか。


 かつて私の近くにもこの手の女性がいたが、彼女は普段は非常にいい子なのだ。普段は意に沿わないことがあると、父母に徹底的に反抗するが、弟や妹がいれば、非常に面倒見がいい。よすぎるくらいだ。他人に対しても仲よくなれば、好かれやすいタイプだ。友達としては楽しい人なのだが、何か気に入らないことがあると、そのとたん、大嫌いになる。付き合うことも嫌がる。相手は何が気に触ったのかわからないまま、ヘンな人だ、といい、遠ざかってしまう。かようにある一面では非常に気が強い。


 事件はディスコで踊ったりしている被害者が、彼女をホテルに誘ったか知らないが、レイプが発端だろう。ごく普通の女性なら警察に暴行されたと相談し被害届を出すか、あるいは、涙を呑んで不幸なことを忘れようと努めるだろう。だが、瑠奈容疑者は普通の女性とは違う。気の強い彼女は「責任を取れ」と迫っただろう。この責任とはどういうものか知らないが、その一言で迫る。


 しかし、被害者は62歳で妻子もいる。そもそも遊びのつもりだろうから、責任の取りようがない。その後も遊びのつもりで誘い出したか、数度会っているはずだ。気の強い彼女はその都度、責任を取れと言い続け、挙句の果てに責任を取らないなら死んでよ、くらい言うだろう。


 こうした事情を知った瑠奈容疑者の父親は被害者に二度と会わないようにいい、接触させないようにしたのは想像に難くない。縁を切れば、娘が立ち直ると考えたのだろう。だが、瑠奈容疑者はそれでは納得しない。責任を取らないのなら、殺してやる、という気になるだろう。父親の修氏は説得しても聞かない娘に対し、最後には、好きなようにさせて立ち直りさせようとするしかない、と覚悟したのだろう。夫人には自分の責任だから、といって、娘の瑠奈容疑者のしたいようにさせたと見るのが自然だ。


 瑠奈容疑者の気持ちを変えさせるには、別の世界を教えることだった。不登校になった彼女は、アクセサリーの教室に通った、というのがヒントだ。途中で来なくなったというが、それはひと通りアクセサリーを作れるようになった後、次の展望というか、その先が見えなくなったことからだろう。花を育てるとか、動物を育てる、盲導犬を育てる、あるいは、外国語を学ぶ、など新しい世界を見せ、興味をひかせることだった。


 付け加えれば、被害者の首を切断したのはそれだけ責任を取らないことへの怨みが強かったのだろうし、その首を持ち帰ったのは犯行を隠すためというより、責任を取らせたという意味合いかもしれない。たぶん、瑠奈容疑者が「どこかに捨ててきて」と言わなかったため、父親も母親も娘がこれ以上、激したり、反発するのを恐れ、風呂場の隅にでも置いたままにしたといえる。父親としてはこうでもするしかなかったという思いだっただろう。


 猟奇的な殺人事件と見られたが、実体はレイプがもたらした悲劇的な事件ではなかろうか。瑠奈容疑者の父親も母親も気の毒だが、犯人を逮捕した警察も気が重いだろう。警察が3人を逮捕後、早々に地検に送致したのもわかる。犯行は残酷だが、「原因は精神的なもの」とでもして瑠奈容疑者を医療措置にするしかないような気がする。


 夢はそこで終わったが、それにしてもレイプは罪が重いことを知るべきだ。今後、男どもはレイプしたら、寝首を掻かれることがあることを覚悟すべきなのだろう。(常)