2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで死亡する、と言われて久しい。1980年代に日本人の死因の1位になって以降、がんは最も気になる病気のひとつとなった。


 がんを治療する医師は何を考えているのか? 病院や医師選びから、予防法・がん検診の有効性、保険……。患者やその家族の関心事に、医師の視点から答えるのが『がん外科医の本音』である。


 著者は大腸がんの専門医である中山裕次郎氏。一般の人にもわかりやすく書ける医師だ(以前紹介した『医師の本音』は12万部(スゴイ!)を超えるヒットとなったという)。


 がんは、死につながることもある。それだけに、患者には「日本で1番の病院」「日本で1番の名医」でみてもらいたいと考える人は多い。雑誌やウェブで病院や名医のランキングは人気コンテンツだし、個人的に「いい病院を教えてくれ」「名医は誰か?」という問い合わせを受けることも多い。


 著者の病院選びの基準は極めてシンプルだ。ポイントは3つ。〈そのがんの治療を専門にやっているか〉、すべての科の医師がいるか、医療スタッフは充実しているかという点で〈病院の大きさはあるか〉、〈自宅からのアクセスはよいか〉である。


 背景には、〈ある程度の大きさの病院であれば、どこでも受ける治療はほぼ同じ〉〈「あの外科医に手術を受けたからがんが治らなかった」ということにはほとんどならない〉という点がある。一方で、がん治療では長期間にわたって病院に通う必要があるため、〈通院のしやすさ〉は大切なポイントになる。


 もうひとつ、著者が重視しているのは、〈主治医との相性〉だ。がん治療では、5年といった長期にわたって主治医と患者の関係が続くことも多い。〈初めの段階で、相性が悪いと感じたら医者を替えたほうがよい〉。


 ただ、直接医師に「主治医を替えてほしい、というのは角が立つ」と考える患者も多いだろう。医師の勤務形態を熟知した著者ならではの裏ワザなど〈主治医チェンジ〉のノウハウは本書で読んでいただきたい。


■科学的根拠が不明な検診も


 気になったのは、これまで漫然と受けてきた「がん検診」の有効性だ。本書では、市区町村などが実施している(政策として実施している点で「対策型」と呼ばれる)検診、人間ドックなど「任意型」の検診の違いや、その背景がわかりやすく解説されている。


 対象部位、年齢、検診の方法別に推奨グレードや効果などを記した一覧表が掲載されているので、自身が受けている検診をチェックしてみるといいだろう。


 検診それぞれにメリットとデメリットがあり、どれを受けるかは考え方次第の部分もあるのだが、著者の基本的なスタンスは、科学的な根拠がある検診はきっちり受けて、根拠が不明なものは受けない、である。ちなみに、市区町村が実施しているものでも〈中には科学的根拠がまだはっきりしていないものを採用し、検診を受けてくださいと勧めているところもある〉という。


 著者が厳しく批判するのが、乱立するトンデモ健康本やいい加減な週刊誌の記事、ネット情報だ。まだ情報にお金を払う習慣のある50代以上の世代にとって、医療・健康情報は最大の関心事のひとつ。それだけに医療・健康情報はメディアにとって“ドル箱”である。根拠が不明な怪しげな書籍や記事もかなりの数存在している。


 著者は〈ヘルスリテラシーの専門家が「出版された本をすべて精査し、誤りを突っ込む。ひどい本を訴える」とするか、公的機関の規制が必要だ〉と説くが、実行するとなると、“検閲”や“表現の自由”の問題が立ちはだかり、容易ではない。広告については年々規制が強化されており、一定の効果は出てきてはいるが、インターネットを中心にまだまだいかがわしい情報があふれており、“いたちごっこ”が続いている。


 当面は、本書の〈情報を見極めるための10か条〉などを活用して、読者側がリテラシーを上げていくのが手っ取り早い方法だ。


 そういえば、先日、会社から、人間ドックの案内が来ていた。「あらためて検診内容を吟味してみよう」、と考えたが、〈タバコを吸っている人は、検診がどうのこうの悩むより、まず禁煙〉だとか。確かに。(鎌)


<書籍データ>

『がん外科医の本音』

中山裕次郎著(SB新書850円+税)