医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターの保富康宏センター長らは30日に、「高親和性レセプターデコイのCOVID-19治療効果を非臨床レベルで確認」したとして、報道関係者に説明した。すべてのコロナ変異株に効果のある新規治療薬で、アカデミア創薬の成果だとの認識を強調した。研究成果論文は『Science Translational Medicine』誌のオンライン版に31日午前3時に掲載される。同誌では表紙で紹介される予定。


 今回の研究は基盤研を中核に、順天堂大学、宮崎大学、京都府立医大、大阪大学、京都工芸繊維大、岡山大などの共同研究。高親和性ACE2デコイの新型コロナウイルスに対する治療効果を検証し、効果的なCOVID-19治療薬のアカデミア創薬開発を目指した。中和抗体などではエスケープ変異に対応できないが、今回の開発はその欠点をカバーするもの。ただ、今回の説明では、ACE2デコイは抗体薬のカテゴリーではないとされている。


 31日に掲載された論文では、ACE2デコイを高親和性化することで、エスケープ変異の出現を減らせることを証明できたとし、抗体薬が無効なXBB株に対してもこれまでと同等の効果が認められたとした。


 また、ACE2デコイの投与方法は吸入投与で簡便であり、タンパク質量を20分の1に減らせるため、医療費削減にも貢献できると強調。とくに今回は高齢のカニクイザルでの治療成績も報告しており、小動物以外でのデータも明らかにした。


 研究の今後の課題等について説明会では、吸入薬として実用化するためACE2デコイの粉末化が挙げられた。この他、パンデミック対応のために開発期間を短縮化する、感染症を含むその他の疾患におけるレセプターデコイの応用利用の検討を挙げた。保富氏はエボラウイルスの治療薬開発応用に期待を示した。


 治療用医薬品開発としては、マウスレベルでの試験段階で複数の製薬企業にオファーしたことを明らかにしたが、新型コロナが収束した場合に汎用性がないなどの理由で交渉が難航していることも表明。順天堂大の岡本徹教授は、「それでも共同研究をサポートしてくれる企業は必要」として、パートナー企業の出現に強い期待を表明した。