出版社系の週刊誌は時折、自社で刊行する時事的な書籍の“さわり”を切り取って、PRを兼ねた記事づくりをする。新作映画の主演俳優らが作品の公開前、突如としてお笑い番組に顔を出すようなものだ。


 今週の週刊現代に載った『ロッキード事件、金丸脱税事件、新薬産業スパイ事件 「検察・国税担当」記者は見た!』は、まさにこのタイプ、講談社の新刊『検察・国税担当 新聞記者は何を見たのか』の宣伝を狙った記事だった。執筆者はこの新刊の著者・村串栄一氏。昭和から平成にかけ、中日新聞社会部で司法担当のエースとして活躍した人だ。


 近年はネットに流通する情報だけで万事こと足れりとし、マスコミ不要論を唱える新世代もいるが、結局のところ、ネットの時事ネタを辿れば、その大半は新聞やテレビ、雑誌報道を源としている。その中でも、「プロ記者」の存在なくして国民が知り得ない情報の最たるものが、権力スキャンダルの調査報道であり、分厚い守秘義務の壁に守られた検察や国税の捜査情報である。記事によれば、村串氏はこの道ひと筋で記者人生を送った人だという。


 こうした記者は、巨大な全国紙でもひと握りしかいない。新人時代、全記者が地方で体験する事件担当は、あくまでも道府県警や警察署をカバーする“サツ回り”(警察担当)にすぎず、警視庁や検察庁、国税を回る司法担当には、その中からとりわけ事件報道に強い敏腕記者が選ばれる。


 十数年前まで新聞記者だった筆者も地方時代、サツ回りと同時に検察や国税を取材したことはあるが、その口の堅さは警察の比ではない。地方の検察でも、禅問答のようなやり取りから、捜査の雰囲気をぼんやりとでも掴めれば上出来であり、1面トップで東京特捜部などのスクープを放つ社会部の司法・国税担当は雲の上の存在、まさに桁違いの力量を持つ人々として、畏怖していた。


 だが不思議なもので、こうしたジャンルに秀でた記者たちは、たいていの場合、文章がまずい。ブンヤには、“掘り屋”と“書き屋”という2つのタイプがある。隠された情報を猟犬のように暴き出す記者たちは、職人的な“掘り屋”である反面、文章表現の能力には恵まれないことが多い。


 村串氏の著作を読みもせず、こんなことを言うのも失礼な話だが、一方で、“掘り屋”の書いた本はレトリックで薄められていない分、ほぼ例外なく内容はギッシリと詰まっている。武骨な表現の一行一行が、過酷な夜討ち朝駆けや地を這うような取材で裏付けられているからだ。


 さて、今週の週刊ポストには、東京地検特捜部が調べている日本歯科医師連盟にまつわる独自ダネが載った。『菅官房長官に流れた「日歯連マネー」3000万円 重大疑惑スッパ抜く』である。


 記事は、目下捜査の渦中にある日歯連の新会長が、民主党政権時代に損なわれた自民党との関係修復に貢献した、としたうえで、組織内候補として13年に当選した島村大・自民党参議院議員の政治資金収支報告書を調べてみたところ、日歯連からの献金の一部が、菅氏が代表を務める自民党神奈川県連に流れた疑いがある、と報じている。


 これまでのところ、新聞やテレビの検察担当は、後追いをする動きを見せていない。内容の問題か、捜査が及ばない感触を掴んでのことなのか。内実は不明だが、ひと通りの裏取りはしたうえで判断したはずだ。


 ある程度、時間が経ってからでも後追い記事が現れれば、ポスト記事のスクープ性が認知されたことになる。もちろん、検察による立件と有罪の確定こそ、最大の証明だが、週刊誌の“トップ屋”にとって、新聞社やテレビ局の“掘り屋”を巻き込めるか否かが、記事の評価を左右する大きな分かれ目になるのである。 


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。