ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏による長年の性加害疑惑で、前社長・藤島ジュリー氏や新社長・東山紀之氏らが7日、記者会見を開き、ジャニー氏の加害行為をついに認め、謝罪した。計4時間を超える記者会見のうち、生放送で見られたのは一部に留まるが、たまたま視聴した質疑の際、白波瀬傑という前副社長への言及があり、個人的には今回の問題で、この人物の存在にこそ関心を引かれた。
事務所で「メディアコントロール」を担当し、事務所や所属タレントにまつわる報道に睨みを利かせた人物だという。「いったいなぜこの会見に白波瀬氏は同席しないのか」という質問で彼の名は出たわけだが、東山氏は「すでに退任したから」と素っ気なく答えただけだった。
もちろん問題の核心は、過去何十年も喜多川氏がその地位を利用してジャニーズジュニアの子供たちに性加害を加えてきた点にあり、東山新社長も「人類史上、最も愚かな事件」「鬼畜の所業」と激烈な言葉で断罪した。それでも私自身がこの事件で「深い闇」を感じるのは、喜多川氏の行為それ自体もさることながら、それ以上に日本の社会全体がその風評を知りながら見て見ぬふりを続けてきた異常さだ。
振り返れば、あのSMAP解散時の騒動でも、芸能マスコミの報道は事務所の顔色を窺うものばかりだった。こうした緊迫した状況になったとき、ジャニーズとメディアとの間では、具体的にどんなやり取りが交わされてきたのか。喜多川氏の最高裁判決が出たときはどうだったのか。白波瀬・前副社長こそがこういった面でのキーマンだったとするならば、7日の会見ではぜひ、その圧に晒されてきた記者たちと白波瀬氏の攻防を見てみたいものだった。
とは言っても、このテーマに関しては一方の当事者はメディア自身である。関係のいびつさを検証したければ、メディア単独でも十分にそれはできる。政府・自民党や検察・警察、あるいは東京電力や統一教会など、メディアの報道にはこれら「強者への沈黙」がしばしば見られてきた。その傾向はとくに近年、あからさまになってきているが、傍目にはどれほど異様に映っても、メディアは常に「圧力も忖度も存在しない」としらを切り続けてきた。今回はその「沈黙」が国内外で批判され、メディア側も「反省・自省の弁」を表明した。そうであるならば、この件での両者のやり取りは、過去にさかのぼり詳細を明かすべきだろう。「沈黙のケーススタディー」がこの一件に限ってでも実行されるなら、今後、他の権力に対しても、介入を防ぐ「抑止力」になるからだ。
だが、そこまで踏み込んで内幕を晒すメディアは現状、ないだろう。となると期待できるのは、喜多川氏の性加害問題で14週もの大キャンペーンを張った週刊文春だけだ。今週の各誌は7日の記者会見の前、外部専門家チームの調査報告書発表(8月29日)を受けた段階で、記事をまとめている。週刊文春は『ジャニーズ帝国の崩壊 キムタク&ジュリー“院政謀議”を暴く』、週刊新潮は『ジャニー喜多川「性加害報告書」に書かれなかったこと』、サンデー毎日は『ジャニーズ性加害問題を考える ファンの存在を事務所は忘れるな!』(放送作家・山田美保子氏の寄稿)といった具合だ。文春でも新潮でもいいので次週以降はぜひ「ジャニーズによるメディアコントロールの内幕」に光を当ててほしい。
ネット上では一部論者が「被害者の会」メンバーの過去の素行を晒すことで、喜多川氏を擁護する向きも見られるが、被害者各人が成人後、どんな生き方をしてこようと、その少年期に喜多川氏がした行為の罪深さは変わらない。被害者を貶めて加害者を免罪しようとするこの手の薄汚い論法には、毎度のことながらげんなりする。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。