先週行われたジャニーズ事務所の会見を受け、今週の週刊新潮は『「ジャニーズ大炎上」何をいまさら「人権」「正義」の大合唱』、週刊文春は『東山紀之“裏の顔”「ヒガシ君の隣りでジャニーさんは僕に……」』と、それぞれに特集を組んでいる。新潮は同誌お得意の「逆張りタイトル」だが、この件では新潮も前号『ジャニー喜多川「性加害報告書」に書かれなかったこと』と銘打って、「ジャニー氏の少年愛こそが、ジャニーズ事務所の事業の根幹をなすものである」とバッシングの輪に加わっている。自分たちのことは棚に上げ、世の風潮を嗤うような今回のタイトルは、さすがにご都合主義が過ぎるだろう。


 それでも、挑発的なこの見出しを別にすれば、新潮の記事そのものにさほど違和感はない。先週の会見内容や東山社長らの新体制をそれなりに評価したうえで、一向に衰えないジャニーズ批判、とりわけCM打ち切りを続々と打ち出すスポンサー企業の動向を「過剰反応」と諫める内容だ。記事後半では、ジャニーズ批判をタブー視する姿勢を続けてきたメディアの体質改善策として「(各メディアの動きに)他のメディアが目を光らせ、(忖度の)具体的な例について報じて表沙汰にするしかない」という民報関係者の声を拾い、ひとつの「忖度事例」にスポットを当てている。


 この「ジャニーズによるメディアコントロール」の問題こそ、この件における最大の関心事であることは前回の本欄で触れた。よくよく考えてみれば、メディア自身の徹底した「自己検証」など、現状のメディアには望むべくもない。実際問題として、新潮の言う「他メディアによる忖度の監視・暴露」こそ、圧に弱いメディアから膿を出す唯一の手段なのだろう。


 今週の新潮が暴くのは今年はじめ、元SMAP・草彅剛氏が主演したフジ系列のドラマ『罠の戦争』(関西テレビ制作)をめぐる問題だ。草彅氏がSMAP時代から主演して『銭の戦争』『嘘の戦争』と続けてきたこのシリーズ、その後氏の事務所退所がネックとなり、第3弾はキー局のフジからストップがかかっていたという。


 やがて、草彅氏の日本アカデミー賞主演男優賞受賞などを経て、番組制作のゴーサインが出たものの、ジャニーズ事務所はこれに激怒。関テレはこじれたジャニーズとの関係を修復するために、毎週30分のドラマ枠で向こう2年間、ジャニーズタレントが主演するドラマをつくることを約束し「手打ち」をしたらしい。


 文春のほうの特集は、喜多川氏がその昔、ジャニーズジュニアの合宿所で少年に性加害行為をした際に、若き日の東山氏も同じ部屋ですぐ傍らにいたとする被害者の証言などを紹介し、先の会見で喜多川氏の性加害を「噂は聞いていたが、具体的には知らなかった」などとした東山氏の発言に疑義を示している。


 注目したいのは、この記事でもジャニーズ事務所の圧力の実例が明かされていることだ。それによれば2016年12月21日のNHK情報番組『あさいち』で、スクープを連発する週刊文春の特集を企画したところ、ジャニーズ事務所がこれに猛反発、もしその企画をやるならば、番組司会者の井ノ原快彦氏(このほどジャニーズジュニアを育成するジャニーズアイランドの社長に就任)をその日は出演させない、とねじ込んできたという。結局、この特集の放映中は井ノ原氏を映さず、コメントも求めない形にすることで手が打たれたらしい。


 前回も書いたように、ジャニーズ事務所と各メディアが長年続けてきたこうした「圧力・忖度」のやり取りをこと細かく、白日の下に晒すことこそが、今後各種権力のメディア介入を牽制する防波堤になり、メディア自身の自戒も促すことになる。文春・新潮ほか各週刊誌は、細切れで部分部分を報じるだけでなく、主要メディアをぜひとも徹底取材して、ジャニーズ事務所の「やり口」を総ざらいしてほしい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。