9月10日(日)~9月24日(日) 東京・両国体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」など)


 4敗力士の優勝決定戦で番付上位の大関が立ち合い変化。熱戦に冷水を浴びせる注文相撲で好角家をがっかりさせた。今場所は全体に変化や引き技が目立ち、低調な取り組みが多かった。締め括りの九州場所は引き締まった攻防を一番でも多く見たいものである。


 がく然、大関が左に飛んだ

 

 大関貴景勝は中日の時点で5勝3敗。1敗でトップを走る高安(前頭7枚目)、熱海富士(同15枚目)と星の差は2つあり、賜杯レースの圏外にいた。しかし、10日目に1敗同士が激突。熱海富士が高安を押し倒し、優勝争いは混沌としてきた。高安はそこから勝ったり負けたりして、最後は大関霧島に敗れて5敗目。一方、熱海富士も高安には勝ったが、後半の5番で2勝3敗と下降した。


<10日目/高安―熱海富士>


 2人が4敗している間隙を縫って、貴景勝は9日目から5連勝して14日目に単独トップに出るが、ここで元気のない新大関豊昇龍に転がされて4敗目。この時点で北青鵬(前頭11枚目)、大栄翔(関脇)を含めて4敗力士が5人という大乱戦の展開になった。そして千秋楽。4敗で残ったのが貴景勝と熱海富士だ。貴景勝は大栄翔との熱戦を制したが、3敗の熱海富士は大関経験者の朝乃山に通用せず、決定戦に望みをかけることに。


 決定戦は大関有利と思われた。熱海富士は土俵の砂を両足で引っかきながら腰を下ろし、大関はやや高く上げた左のこぶしを降ろすように仕切ってくる。その動作が2度続いた後、格上の貴景勝がなんと左に変化。相手の頭を押さえつけながら引き落とした。館内に失望と怨嗟の入り混じった微妙な雰囲気が広がる。


<優勝決定戦/貴景勝―熱海富士>


 貴景勝は立ち合いの強烈な押しで上りつめた。それ以外に得意技のない大関にとって、「変化」は秘密兵器だろう。黙々と土俵を務める真摯な姿勢は好感が持てる。しかし、最後の最後でこの技(技ともいえないが)を繰り出す必然性はどこにあったのか。昨年11月場所の優勝決定戦で阿炎に敗れたことがトラウマになっていたか。滅多に見せない変化を大一番に見せたことで、貴景勝の株はガタ落ちした。


重圧に負けた新大関


 新大関の豊昇龍、大関2場所目でカド番の霧島はともに不調を脱しきれなかった。特に豊昇龍は、地位が及ぼすプレッシャーに負けて良いところがひとつもなかった。2日目の北勝富士戦はその典型。上半身に力が入り、足が付いていっていない。結果(勝敗)を気にしすぎて思い切った相撲が取れず、中盤を迎えて3勝6敗と後がなくなった。


<2日目/豊昇龍―北勝富士>


 10日目の若元春戦でようやく立ち合いに思い切りが生まれ、一気に寄り切った。ここから5勝1敗と立て直して勝ち越したが、「ホッとした」との談話に対して解説の舞の海が「大関の言葉としては聞きたくない」と吐き捨てた。霧島も似たようなもので、目標に到達して満足したのか、力強さも思い切りもなかった。大関と関脇など上位陣の力量が接近しているので、2桁挙げるのも苦労する。得意の型を身に付けなければ、体格的にも優位と言えない2人の苦戦は続くだろう。


3度変化した阿炎は破門だ!

 

 人気者の阿炎(前頭2枚目)は、初日新大関の豊昇龍に敗れたが、2日目からは両手突きの腕もよく伸びて快調だった。しかし、5日目の貴景勝戦から引き技を連発する消極的な相撲で3連敗。後半の5番に備え、悪太郎は一計を案じた。10日目、押しの強い隆の勝(前頭4枚目)との一番で立ち合いに変化、6勝4敗にして星を有利に進める作戦に出た。そして12日目、正攻法でならす遠藤に対しても変化一発。卑怯者ぶりを存分に発揮して給金を直した。すべて計算づくである。


<10日目/阿炎―遠藤>


 極めつきは14日目の熱海富士戦。3敗でトップを走る若手の成長株にも身を翻し、国技館は失望のるつぼと化した。熱海富士は寸前で堪えて逆転勝利。転がされた長身の阿炎はとても無様だった。角界きってのうるさ型、錣山親方の師弟愛に泥を塗る最低の相撲。15番で3度の変化は破門に値する。コロナ禍で破廉恥行為に及んで出場停止を食らい、妻子と別居してまで打ち込んだ復活劇はここでピリオドを打った。楽して勝とう精神は生きていた。人間やはり生まれ変わることはできないのだ。浅はかな奴は、どうやっても賢くならない。


今場所は変化が多かった

 

 今場所は、立ち合いの変化が多かった印象がある。文字どおり首が回らず、引き技が多くなった金峰山(前頭10枚目)などは、その典型だった。変化すると、決まって「体が勝手に動いた」などとほざくが、100%あり得ない。変わろうと思って変わるのである。そうした愚行を今場所最高位の大関が最後の最後でやった。嘆かわしい。(三)