一時期のネットはその話題一色に塗り潰され、私自身も何か本欄で書いたはずなのだが、今となっては記憶が遠く霞んでしまっている。7年前に起きた「SMAP解散」をめぐる騒ぎのことである。ジャニーズ事務所社長・メリー藤島氏(当時)がSMAPを育てた幹部社員・飯島三智氏を疎んじ辞めさせて、飯島氏を慕うメンバー3人がジャニーズを退所。一方で木村拓哉氏は事務所に残る道を選び、グループは分裂・解散した――。そんな「粗筋」は一応わかるのだが、いったいなぜファン以外の一般の人たちまであれほど感情移入して、批判の声を上げたのか。そんな「当時の激情」がもはやピンと来ないのだ。


 たまたま13日配信の「デイリー新潮」に『「世間の一部には誤解がある」木村が歩み寄っても、SMAP再結成は絶対ないと断言する理由』という記事があり、紅白の司会がSMAPに決まりかけたとき、メリー氏がNHKにねじこんでこれを潰したこと、メリー氏と近かった木村氏の姿勢に、他のメンバーとりわけ香取慎吾氏が強く反発し、「休業」が「解散」に切り替わったこと……そういったディテールがあれこれ書かれていて、「そうだった、そうだった」と少しずつ記憶が蘇った。


 こんな前置きから始めるのは、週刊文春で新しく放送作家・鈴木おさむ氏の『最後のテレビ論』という連載エッセイが始まったからだ。それなりに実績のある業界人であり、女芸人の大島美幸さんの夫である、その程度のプロフィールしか知らない人物だが、連載初回でいきなり「断筆」を宣言し、来年3月で放送作家および脚本家を廃業するというから興味深い。フジテレビ「SMAP×SMAP」の作家だった鈴木氏は、SMAPの解散以後、仕事にフルパワーを発揮できなくなってしまったのだという。


 氏が昨年末、月刊文藝春秋に「20160118」というSMAP解散にまつわる小説を発表したことも、このエッセイを読むまで知らずにいた。彼はスマイルカンパニーという山下達郎氏ゆかりの事務所に所属することも文中で明かしている。この夏のジャニーズ問題で音楽プロデューサー・松尾潔氏を辞めさせて、ジャニーズへの「忖度体質」が話題になった事務所だが、文藝春秋での小説発表時には山下氏の慰留を受け、鈴木氏は辞めずに済み、来春の断筆までこの事務所に在籍するという。


 とまぁ、あれこれ思わせぶりな要素を散りばめつつ、初回は終わるのだが、今後半年間、鈴木氏はこの欄で「思っていることは全部書く」と予告する。そんな大物業界人による「テレビ論」である以上、SMAPの解散やらジャニーズと各局との関係やら、昨今の芸能界、そしてテレビの最深部を赤裸々に語ってくれるものと私は期待する。まずは次回記事を注視したい。


 週刊文春の同じ号、「This Week」という短信欄では、維新の会を離党した親露派議員・鈴木宗男氏を取り上げている。『“日出ずる国からの珍客”と揶揄 露が鈴木宗男を警戒する理由』。国内では「ロシアべったり」で有名なこちらの鈴木氏だが、現地では大歓迎されたかと思いきや、まったく違っていた。北方領土がらみの要求を企む曲者で、相手にすべきでない、という冷ややかな報じられ方をしたらしい。国益に資するのか反するのか、国内では侃々諤々の氏のスタンスだが、現実には何のことはない、プラスマイナスどちらの影響力も持っていないといういささか物悲しいオチであった。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。