宝塚歌劇団に横行するイジメの実態を週刊文春が最初に暴いたのは、1月と2月の記事。劇団は当初これを否定していたが、9月30日、この渦中にいた娘役・有愛きいさん(25)が自宅マンションから投身自殺するというショッキングな事件が発生してしまう。文春は以来、『宝塚歌劇団は壮絶イジメを8ヵ月放置した』(10月19日号)、『タカラジェンヌ飛び降り事件 宝塚は5年前の飛び降り事件も隠蔽していた』(同26日号)、『タカラジェンヌ飛び降り事件 宝塚同期生の涙の訴え音声入手「もう少し真剣にとらえて……」』(11月2日号)と追及キャンペーンを続けている。


 週刊新潮も前号(10月26日号)からこの追及に参入した。厳密に言うと、新潮の第1報は有愛さんの死の直後、ワイド特集のひとつとして載せた『「宝塚」女優自殺で「人気娘役」にイジメ疑惑という悲劇』という短めの記事だった(12日号)。この記事は同誌のウエブサイト「デイリー新潮」にも13日にアップされたのだが、ウェブのほうの見出しは紙の雑誌とやや異なり、『宝塚女優の自殺の真相とは「いじめが原因」説には疑問の声も』というものだった。


 後者のタイトルだと、文春報道に異を唱える独自路線とも映る。だが、記事の本文中、イジメを疑問視するニュアンスは、匿名演劇評論家の「そう単純な話ではない」というコメントがひとつあるだけだ。しかも評論家氏の論拠は、劇団側が公式発表したイジメ否定の談話以外にない。記事全体も「イジメ懐疑説」で書かれたわけではなく、おそらく文春に過剰なライバル心を持つウェブ部門の編集者が、ついつい「勇み足」でつけてしまった逆張りタイトルだったのであろう。


 その後、新潮が独自取材を重ねてからの続報は、ウェブ版タイトルとは一変して、イジメの現実をこれでもかと抉るものだ。先週26日号の4ページ特集は『桜の園は地獄篇 110年の歴史で初の悲劇 「宝塚」“イジメ自殺”を読み解く「天彩峰里」「芹香斗亜」異様な舞』と、文春顔負けの告発調だった。今週も『父兄から「悲憤」「怨嗟」の声噴出!「宝塚」イジメ自殺の元凶は「奴隷契約」』と続き、前号記事で“イジメ自殺”と留保付きにしたタイトル表記から、今週は“ ”(カッコ)を取り外した。


 当方、宝塚の知識は何も持ち合わせていないのだが、漠としたイメージだけで言うならば、あの組織にこうした陰惨な側面があっても意外には感じない。劇団員が命を絶つような惨劇は、さすがに異常事態だが、自衛隊や相撲部屋などと同様に、閉ざされた軍隊式タテ社会の集団では、往々にしてイジメはあるものだと思っている。宝塚に違う点があるとすれば、外面では内部の陰湿さを完全に覆い隠し、「清く正しく美しく」と真逆のイメージで押し通してきた厚顔さであろう。熱烈なファンや事情通ならば、きっと折々にドロドロした内実も伝え聞いていたはずだが、それを漏らすことは絶対に許されない。


 社会的にある種の権威となった組織・集団には、そういった不健全なタブーが付きまといがちだが、今回の1件で、宝塚のその「掟」にも綻びが現れたように思う。もしかしたらそれは「ジャニーズ帝国の崩壊」の余波かもしれないし、だとすれば、それは令和の世に必要な変化ではないか。


 週刊新潮は、前号に続いて中東・ガザの惨状も伝えている。『イスラエルvs.ハマス「ガザ」からの“極限”証言「国境なき医師団」日本人スタッフが「ここは地獄」』という記事だ。保守論壇の一部には、ハマスによる先日のテロだけを切り取ってイスラエルを全面擁護する「論客」も見られるが、イスラエル軍によるガザへの報復攻撃はまさに今、進行中のジェノサイドだ。右派雑誌の週刊新潮が、その点で自社系の一部「論客」に引きずられず、「真っ当な感覚」を持ち合わせていることに救われる思いがする。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。