前回紹介した『1100日間の葛藤』で、あまり触れられていなかったのが、新型コロナワクチンの評価だ。そこで手に取ったのが、『ワクチンを学び直す』。著者の岩田健太郎氏は感染症専門医で、コロナ禍の初期からさまざまな発信で一般にも知られる存在となったが、常に是々非々で発言していた印象だ。


 本書は歴史から効く仕組み、予防接種制度など、多岐にわたるワクチンのトピックをわかりやすくまとめている。


 注目度が高い新型コロナワクチンに関しては、約40ページを割いて解説している。日本は〈mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン提供が非常にうまくいった〉〈mRNAワクチンの取り柄である開発のスピードが、変異株のスピードについていっているところは素晴らしい〉との評価。


 ワクチンがなかったころは、1割程度の患者が死亡していたという。〈ワクチンのなかった時代のコロナは本当に恐ろしかった〉とは、当時の一般人の感覚とも一致する。


 ニュースバリューが下がったのか、このところ新型コロナに関する報道に触れる機会も減っているが、〈いまだにワクチンを全然接種していない方が重症化して入院、というケースも散見する〉という。


 ■承認しているのに任意接種


 昨今、「ワクチン後進国」と言われることも多い日本。著者は日本のワクチンに関連するさまざまな問題をエビデンスや海外の状況などと比較しながら指摘している。


 例えば、ワクチンの接種方法。本来、〈不活化ワクチンは構造上、筋肉内注射の方が効果を発揮しやすい〉にもかかわらず、インフルエンザワクチンをはじめ、皮下注射で行われているという(理由は本書を参照のこと)。


 新型コロナワクチンの接種方法として、多くの医療関係者が「筋注」を経験した。本来、あるべき姿に変えていくべきだろう。


 また、有効性・安全性が認められて承認されているにもかかわらず、任意接種となっているワクチンについては〈意味が分からない〉と手厳しい。


 任意接種では、全額自己負担という費用の問題もさることながら、定期接種にある副作用が出た場合の補償制度が使えない(PMDA法に基づく医薬品副作用被害救済制度の対象となる)。似たような仕組みを別々に運用して、制度を複雑にするのは行政のサガなのだろうか。


 HPVに関しては、積極的勧奨を2022年に再開したが、接種率が上がらなければ、勧奨をやめていた7年間よりもさらに海外に後れをとるリスクもある。


 意外だったのは「日本発」のワクチンがあること。古くは水痘のワクチンで「Oka株」(開発者ではなく患者の名前から取ったとか)として知られるワクチンもそのひとつ。菌体細胞を含まない無細胞百日咳ワクチンは佐藤勇治氏らが開発した。近年は後進国か……と思いきや、武田薬品がインドネシアで承認されたデング熱ワクチン「QDENGA」を開発している。治療薬同様、ワクチンは日本企業に存在感を発揮してほしい分野である。

 

 本書を読むまで抜け落ちていたのが、病気や妊娠とワクチン接種の関係だ。例えば、臓器移植後は麻疹などの生ワクチンは打てないので、移植前に打つのが基本だ。妊娠中も生ワクチンは禁忌。〈風疹ワクチンなどは「妊娠前」に打っておかないと、妊娠してから風疹に感染し、先天性風疹症候群のリスク〉となる。


 さて、冒頭に触れた新型コロナワクチンだが、国全体としては打つことにメリットや意義があることはよく理解できた。もっとも、本書でも触れられているようにワクチンでは一定の副反応は出る。死者や重篤な健康被害について、ほとんどのケースで接種と死亡の因果関係が不明の現状には違和感がある。来年度からは季節性インフルエンザワクチンと同様の扱いになるとみられるが、国として適切な調査を行い、対策を取っているのか、疑問は残った。(鎌)


<書籍データ>

ワクチンを学び直す

岩田健太郎著(光文社新書880円)