自民党派閥パーティー券問題が予想外の「大疑獄」へと発展する可能性をいち早く報じたのは、3週間前の週刊新潮(11月23日号)記事『岸田「年内解散見送り」騒動の原因はこれだった⁉ 特捜部がメス「ノルマ」「裏金」「虚偽記載」横行 「派閥パーティー」疑惑で“増税メガネ”の断末魔』であった。そこでは政治ジャーナリスト・青山和弘氏が「自民党はこの件でかなりザワついています」と説明、「立件されるかどうかはともかく、検察が入ると、別の“掘り出し物”が出てしまう可能性もある。(自民党議員らは)どうなるかわからないという恐怖に怯えているといったところ」と語っていた。
岸田首相も当初は、政治資金の記載漏れ案件にすぎず「裏金云々という指摘は当たらない」と強気に出ていたが、その後、安倍派や二階派でノルマ分を越えたパーティー券売り上げが事実上、販売した議員らの裏金としてキックバックされる仕組みがあることが発覚。実際に利益を得た議員として、松野博一・官房長官や西村康稔・経産相、高木毅・国対委員長、萩生田光一・政調会長、世耕弘成・参院幹事長、塩谷立・元文科相といった安倍派幹部の実名が報じられるに至っている。
今週の週刊新潮はこうした状況を受け、『「安倍派裏金1億円超」怨念「特捜」の標的は「松野官房長官」「西村経産相」「高木国対委員長」』という続報を掲載した。記事によれば、検察で捜査を取り仕切るのは森本宏刑事部長。安倍政権がかつて検察人事に介入し、息のかかった人物を検事総長に据えようとした一件に同刑事部長は「憤怒の念」を抱いていて、安倍派の立件に闘志を燃やしているという。そう言われれば、安倍長期政権は、その中枢に司直のメスが入る事態など起こり得ない「絶対権力」と見られていた。モリカケ桜、公文書偽造など、何をやっても裁かれない。不正を憎む国民から見れば、無力感漂う異様な時代だった。そう考えると今回の捜査は、長らく去勢されていたこの国の検察が、ようやく復活・正常化しようとする「反撃の狼煙」に思えてくる。
今週のサンデー毎日は『地方選で相次ぐ「敗北」 東京・江東区長選に潜む岸田政権「倒閣」の火種』という政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏の論考を載せた。それによれば、来年の自民党総裁選で「もはや岸田再選はよほどのことがなければ無理」とのこと。すでに党内では「ポスト岸田」をめぐる思惑がうごめいていて、河野太郎・デジタル相や高市早苗・経済安全保障相、石破茂・元幹事長、茂木敏充・幹事長、上川陽子・外相といった名が取り沙汰されているが、カギを握るのは政策の違いより、誰が「選挙の顔」になり得るか、という一点なのだそうだ。それほどに最近の地方選挙では、自民系候補の苦戦が続いていて各地の党組織が悲鳴を上げているという。
一方、週刊文春は、大阪万博に絡んだ『吉村知事「親密企業」が維新万博を続々受注している!』や、タカラジェンヌ飛び降り追及キャンペーン第10弾『宝塚を牛耳る“ドンと女帝”』などの独自記事を載せた。興味深いのは『日大アメフト“大麻汚染”林真理子理事長vs.副学長澤田康浩 暗闘と無策400日』という記事だ。文春にとって林氏は、1800回を超える大長期連載エッセイ『夜ふけのなわとび』を書いてもらっている大御所の常連筆者である。今回の記事では、林氏個人をさほど強く責めてはいないものの、彼女の談話を直接取ろうとして直撃まで試みている。いわゆる「作家タブー」により醜聞に目をつぶる慣行は、もはや過去のものなのか。だとすれば林氏はどう出るのか? 次号以降の展開がとても興味深い。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。