4月に行われる衆院3補選のあたりから多少は雰囲気も変わるのかもしれないが、昨年来の裏金問題で政権や自民党がかつてない窮地に立つ一方、世間の人々は「権力の行方」にほとんど興味を示さない。素人目に思うのは、「ポスト岸田」のリーダーを探そうにも、与党で名前が挙がるのは存在感の薄い「小粒」の議員ばかり。野党を見渡しても、第1党の立憲が、自民の補完勢力を自認する維新・国民に相変わらず「共闘」の秋波を送っていて、どうにも腰がふらついている。
こうした状況下、週刊誌各誌は政局をどう読み解くのか。当方はさほど熱心に政局記事を読み、その優劣を検証するほうではないのだが、個人的には『サンデー毎日』に時折載る鮫島浩氏の文章が好きでよく読んでいる。氏の分析は鋭いのか、それとも突飛なだけなのか、玄人筋の評価は知らないが、少なくとも彼が書く記事には圧倒的にオリジナリティーがある。
先週号に載ったのは「岸田首相、裏金政倫審に自ら出席の“奇襲” 4月解散これだけの理由」という記事だ。低支持率にとことん追い込まれた岸田氏が開き直るようにして、派閥の解消や政倫審でのサプライズを根回しなく仕掛け、そのことが茂木敏充幹事長や麻生太郎副総裁ら党の重鎮らの不興を買っていることは、さまざまな報道で指摘されている。鮫島氏はさらに次の展開として、岸田氏が4月に解散に打って出る可能性があるというのである。現状では9月の総裁選で再選を勝ち取るのはほぼ不可能。唯一の打開策として6月解散の可能性が囁かれてきたそうだが、鮫島氏の説明ではそのころはちょうど政治資金規正法の議論の真っ最中。与党は間違いなく劣勢に立たされるはずだという。むしろこの論戦が国会で始まる前、4月の段階で解散を仕掛けるほうが、まだ政権の傷は浅くて済む。鮫島氏はそう見立てている。
今週の『週刊ポスト』は「3・17 岸田おろし号砲!」という記事を載せている。それによれば目下岸田氏は党内で完全に「四面楚歌」。「岸田おろし」の動きも今まさに始まろうとする状況で、岸田氏の側は17日の党大会に向け、不祥事を起こした議員の処分を厳しくする党則改正の「対抗策」を用意、安倍派の幹部らや二階派代表の二階俊博氏らをいつでも追放できるようプレッシャーをかける構えだという。とは言っても、党大会でもし地方代表から岸田氏批判が吹き上がれば、こうした策略も吹き飛んでしまううえ、翌月の衆院3補選でもし負ければ、岸田氏は一気に「詰んでしまう」らしい。
今週の『週刊文春』『週刊新潮』にこういった政局記事は出ていない。文春は政治関連では「安倍派“裏金のドン”を誌上政倫審! 森喜朗疑惑の4千万報告書と派閥復活の悪だくみ」という記事で森・元首相を痛烈に批判。新潮は「政権の二大“病巣”」と銘打って「『茂木幹事長』の卑しい『政治資金規正法違反』疑惑」「『麻生太郎副総裁』はなぜこんなにエラくなったのか」という両記事で、自民党の2巨頭を追及する。
結局のところ、自民党の今のカオス状態は、党内権力闘争の基礎単位であった派閥というまとまりを岸田氏が半ばヤケッパチな「蛮勇」で突き崩したことにより、もたらされたものと言えるだろう。だが、ここまで歴史的な「政治的混乱」が起きているにもかかわらず、私個人も、そして世間の多くの人々も、まったく興奮できないまま、冷ややかにこれを眺めている。主要な登場人物たる党幹部や「ポスト岸田氏」の候補者らに、共感できそうな人がほとんど見当たらないためだ。彼らの権力闘争がどのような結果になろうとも、嬉しいとも残念とも思わない。「たとえ消去法であれ、よりマシな(ように見える)個人やグループを応援する」という政治関連の「マイルール」さえ、今回は投げ捨てたくなるほどに、すべてが自分とは遥か遠い他人事にしか見えないのだ。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。