地価の話である。昨今、都心の地価が値上がりしている、とあちこちで聞いていたら、国土交通省が公示地価を発表した。内容は「全国の調査地点2万6000ヵ所のうち、65%の地点で地価上昇している」そうで、住宅地は全国平均で2.0%の上昇、東京、大阪、名古屋の3大都市圏は2.8%の上昇。特に東京都内のマンション価格が高騰している、と発表された。


 テレビを見ていたら、なんでも都心の新築マンションは1億円を超えているそうで、3億円、5億円のマンションが当たり前になっているという。そのため最近は中古マンションが人気になっているらしい。不動産会社では中古のマンションを改装して販売しているが、人気がある、と伝えていた。 


「ああ、マンションを売って田舎に引っ越さなければよかったなぁ、と思っていたら、ある経済研究所の主任研究員が「都心の地価が上がった時は、近郊の地価も上がっていますから結局は同じですよ」と言われた。値上がりしないのは高齢者ばかりになった過疎地だけなのだろう。


 では、新型コロナ禍で在宅勤務が必要とされたが、それはどうなったのだろう。河野太郎デジタル大臣に至っては「ハンコを押すために出社している。おかしなことだ」と強調し、在宅勤務を奨励していたはずだ。新聞テレビでも在宅勤務が叫ばれ、会社は大きなスペースを必要としない、と書きまくっていた。


 サラリーマンは長野県や群馬県、あるいは東北、北陸など、緑が多く、空気が新鮮な田舎暮らしを送り、仕事はパソコンとZOOMで行ない、週に1回程度、都心の会社に出向けばよい、さらに多くの企業が在宅勤務で広いスペースがいらなくなったため、都心から離れた地域や郊外に移転した、などという例を盛んに報じた。


 おかげで都心のビルは空き家が増加し、当然、都心の地価も下がり気味だともつけ加えて報道した。まるで都心はガラ空きになりそうな話だったが、あれは一体、どこに行ったのだろう。


 そういえば、昨年、森ビルが港区に超高層ビルを竣工した。地上64階で高さ330mで、大阪のアベノハルカスより高いビルだそうで、早速、テレビ各局が紹介していた。最上階からは東京タワーの展望台が下に見えると言っていた。ついでにニューヨークの超高層ビルや中東・ドバイの超高層ビルを紹介、比較していた。


 だが、そんなに喜ぶ必要はないし、がっかりすることもない。よくよく考えれば、ローマにもパリにも、ロンドンやウィーンにも超高層ビルはない。建てる気もない。歴史のある都市は昔からの歴史的建築物を大切にするので、最新の高層ビルは似合わない、いや、不要なのだ。超高層ビルをつくるのは歴史が浅い都市の証拠なのだそうである。


 日本でも1200年の歴史がある京都には誰も超高層ビルを建てたいとは思わない。だいいち、似合わないだろう。むしろ、超高層ビルがないほうが歴史のある町として自慢できるのだろう。


 テレビは超高層ビルの下層階の商店街も紹介していたが、それにしても、こうした超高層ビルの家賃は高いだろうな、商店街は高い値段で商品を販売しているのだろうな、入居した企業は相当儲けている企業だろうなと感じ入る。


 実は、少々、旧聞になるが、名古屋の実業家に会ったとき、次々にホテルを建設、開業しているAホテルについて「どうしてあんなに次々にホテルを建設できるのだろう。資金が豊富とも思えないし、銀行がそんなに金を貸すはずがない。どうなっているのだろう?」と尋ねられた。


 お気付の人もおられるだろうが。かつてそのホテルはテレビコマーシャルに「私が社長です」と帽子をかぶった中年の愛嬌のある丸顔の女性が登場したことで賛否ともども話題になった。ご主人は不動産業を経営している傍ら、ホテルを作り、夫人がそのホテルの社長をしていた。最近は、テレビコマーシャルに夫人が出て来ないので淋しいが、ホテルのほうはあちこちの都市に次々に建設し、数十ものホテルを擁している。


 私にもAホテルがどこにそんな資金があるのか不思議だったが、わからない。すると1ヵ月後に実業家から電話が来た。「キミ、わかったよ。実はね、その仕組みがどうなっているのか知りたいと思ってホテルに泊まってみた。今、そのホテルにいるんだよ」というのだ。


 彼によると、ホテルの部屋に入り、目についたのが、電話のあるテーブルに置いてあった案内状だったというのだ。その案内状は「貴方もホテルのオーナーになりませんか」と誘う内容だったそうで、ホテルの1室を買うと、旅行者が払ったホテルの宿泊料から一部がオーナーの収入になる、という仕組みだった。


 つまり、ホテルのオーナーはホテルの建設後、各部屋を投資家に売却して建設費を回収。部屋を買った投資家は宿泊した旅行客の宿泊代の一部を受け取り、利殖になる、という内容だったのだ。なるほど、これならホテル会社は投下した資金を即座に回収し、次のホテルを建設できる。


 しかし、20年後、30年後はどうなるのだろう。親しいホテルのコンサルタントによると、通常、コンクリートの建物の法定耐用年数は60年だが、ホテルは使用頻度が高いため、40年で建て替えが必要になるとされていた。ところが、最近は、20年くらいで建て替えが必要になっている、というのだ。


 その理由は20年も経つと、ホテルは厨房や排水施設など、老朽化が激しくなり、修繕しても間に合わない、そのうえ、設備機器が最新のものほど効率的だそうで、修理して使っていては費用がかかるばかりだから建て替える必要になるという。


 皇居の傍のパレスホテルは50年前の東京オリンピックに合わせて建てられたホテルだが、排水が漏れたりして裏方は大変だったという。ホテル業界では下層階がオフィスで上層階がホテルになっているのを「下駄履きホテル」というのだが、パレスホテルはこの下駄履きホテルに建て替えた。おかげでホテルマンたちは喜んでいたほどだ。


 では、ホテルの1室を分譲してしまったAホテルが20年以上経ったとき、どうなるのだろう。ホテルオーナーは建て替えればいいが、1室を購入した投資家は二束三文でホテルオーナーに買い取ってもらうか、転売するかそれとも建て替え費用を負担することになるのだろうか。


 そういえば、バブルの時代に観光地のマンションの1室を買い、会員制リゾートクラブを経営するのが流行った。100万円とか200万円なりの入会金を払って会員になると、リゾートのマンション利用者から宿泊料が入るし、会員は自分がタダで利用することもできるという触れ込みだった。


 だが、バブル崩壊で、リゾートマンションの利用客は激減、あっという間にこの手の会員制リゾートクラブは大方が姿を消した。ホテルの1室を分譲してしまう、このチェーンホテルも似ているような気がするが、どうなのだろう。


 話を戻す。実は、コロナが始まった頃だったが、いろいろ情報をもたらしてくれたK老人から電話があった。彼は大手証券会社の法人部長を務めた人で、退職後、ホテル内に事務所を持ち数社の顧問、相談役をしていた。その1社の話である。


 K老人は格安航空券で名を成した旅行代理店のS氏の相談相手になっていたが、私への電話は「S君が新しいビジネスを始めたよ」という話だった。「S君は完成したばかりの高層ビルの3フロアを買い取った」というので、「じゃあ、本社を移すのですか?」と尋ねると、「いや、そうじゃない。買い取ったフロアを入居したい会社に貸し出すのだよ」という。「それじゃ、又貸しみたいなものじゃないですか。それに新型コロナで在宅医療になるとか新聞テレビが騒いでいるときに大丈夫なんですか」というと、K老人は「ビルオーナーは雑居ビルにはしたくない。一方、新ビルに入りたいけれど、家賃が高いから入れないという企業もある。そういう企業向けに1フロアを2分割、3分割して貸すんだ。ビルのオーナーは入居企業を集める費用が浮くし、早く建設費などの投下資金を回収できる。S君は買ったフロアを貸し出して利益を上げることができる。新しいビジネスだよ。コロナはあるけど、逆にこういう時こそチャンスかもしれない」と言うのである。


 その後、新型コロナが猛威を振るい、詳しく聞くチャンスはなかったが、1年後に再びK老人から「H氏は買い取った当該フロアを売却した」という電話があった。Hさんは破綻したレジャー施設を再建したが、そのレジャー施設が新型コロナ禍で苦戦し、売却したと報じられていた。その穴埋めもあってビルの3フロアも売却せざるを得なかったらしい。


 ともかく、昨今は新参のホテルは部屋を投資目的に分譲し、都心の高層ビルではフロアごとに売却、買った企業はフロアを分割して貸し出す事業が活発になっているらしい。なんだか、日本中が分譲マンションのようなのだ。当然だが、又貸しだったり、投資目的だから、その分、分譲価格や家賃は高くなる……。


 都心のマンションが億ションばかりになったというのは、こうした投資が引き金になって地価を押し上げてきたのではないか。先日、日銀はゼロ金利解除を発表したが、十数年続いたゼロ金利下で、汗水流さない有利な投資として広まってきたような気がする。これもゼロ金利がもたらしたものなのだろう。(常)