『健診結果の読み方』は、その名の通り、配られる健診結果の読み解き方を項目別に開設した1冊だ。


 サラリーマンなら、通常は毎年健診を受けているはずである。労働安全衛生法で、会社は健診の実施を義務付けられていて、社員は受ける義務があるからだ。受けないでいると懲戒処分の恐れもある。


 実は、健診は生まれる前から行われている。妊婦健診は生まれる前、生まれたら乳幼児健診、保育園や幼稚園、学校でも健診が行われている。では、サラリーマンを辞めたらたらどうなるかというと、40歳以上なら特定健診が受けられるし、75歳以上になると、後期高齢者健康診査が受けられる。ほかに39歳以下の健診(自治体によりことなる)や、自治体のがん検診もある。一生、健診は続くのだ。

 

 気をつけたいのは、自営業者や専業主婦だろう。義務化されていないだけに、意識して受けないと、学校を卒業した後は「ほったらかし」で、気がつかないうちに病気が進行していたという事態も起こり得る。

 

 個別の健診結果の見方や詳細については本書を参照していただきたいが(類書のなかでも、かなりわかりやすく書かれている)、なかには意義が問われているものや、目的が変化したもの、消えてしまった健診項目もある。


 意義が問われているものの代表格が、特定健診(メタボ健診)における腹囲だろう。男性85cm、女性90cmという基準値については、設定当初から疑義を呈されていたが、東京都のデータで男性は〈50代に入ってくると、基準値を上回るひとが5割を超え、65歳以上になると6割近くに達して〉いるという。〈逆に女性は90cm以上の割合は、1割から2割〉しかいない。


 当然、過去のデータの蓄積はあるはずである。健康状態と腹囲、BMIなどのデータをもとに基準の見直しをすべきなのだろう。


 基準という意味では「血圧」の数値は、1987年以前は年齢+90~100が基準とされていた。今はだいぶ厳しくなった。一方で、〈患者は大幅に増えました。潜在的な患者も含めて、全国で3000万人とも4300万人とも言われています〉という。


〈これだけ多くの潜在患者が出るような基準値そのものが、どこか変なのでは無いでしょうか〉という著者の指摘はごもっとも。


 昨今では血圧の「下げすぎ」のリスクも言われるようになった。年齢別などに、新たな基準を設けるべきであろう。


■尿酸値が高いと認知症になりにくい⁉


 目的が変化したものとしては、胸部のレントゲン検査があげられる。もともとは結核の早期発見を目指して戦後に始まったものだが、結核患者が激減した現在は肺がんの早期発見を目的にしているという。ただし、〈結論から言うと、職場健診で肺がんが見つかる可能性は、かなり低い〉のだとか。不安なら、CT(コンピュータ断層撮影)検査など、より精緻な方法で調べたほうがよさそうだ。


 ちなみに、児童・生徒のツベルクリン検査や座高の測定は現在行われていない。子供たちが、座高が高い低い(≒胴が長い短い)で盛り上がったのは昔の話となった。


 自らの健診数値の位置づけを知るうえで役に立ちそうなのが、本書で紹介されている厚生労働省の「NDBオープンデータ」。少しだけのぞいてみたが、多少統計学とエクセル操作の心得があれば、使いこなせそうだ(健診以外のデータもあれこれ公開されている)。

 

 血圧やらγ‐GTPやら、50歳を過ぎたオヤジたちの「不健康自慢」のネタにもなる健診の数値だが、その代表格である尿酸値について気になる情報があった。


 ひとつは〈アルツハイマー病を含む認知症のリスクが低くなる〉ということ。もうひとつは、〈かなり以前から、尿酸値が高い人は、がんになりにくいと言われていました〉ということである。


 いずれも医療界のコンセンサスが得られているものではないが、もしきちんと証明されれば、尿酸値が高めの人にとっては、朗報かもしれない。もっとも、やはり高すぎるのは問題で、痛風や尿路結石のリスクは高まる。


 さまざまな病気のリスクを考慮したうえでの理想的な尿酸値はどの程度なのか? 今後の研究の進展に期待したい。


 この手の本を読むたびに、「次回は健診結果をちゃんと読むぞ!」と誓うのだが、例年さっと眺めて終わり。こうした受診者が少なからずいることが、健診の最大の問題なのかもしれない。(鎌)


<書籍データ>

健診結果の読み方

永田宏著(講談社+α新書990円)