バブル崩壊後の「失われた30年」を経て、かつて世界1位だった日本の国際競争力は35位にまで低下(2023年版「世界競争力ランキング」)、じりじりと「着実に」地盤沈下を続けている。少子高齢化や人口減はさらなる深刻化が迫っていて、5年後・10年後の将来展望にも暗雲が垂れ込める。にもかかわらず、我が国民は自公政権にひたすら国政を委ね続けている。
野党はもっとダメだから……。民主党時代のガッカリ感を思えば、そういう見方もあるだろう。しかし、だから「自公一択」で、という思考停止の行く末に、V字回復の未来は見えてこない。万年最下位のプロ野球球団で、監督も出場選手も固定して動かさない。例えるならそんな姿勢に似た無為無策だ。どうせ今年も負けるなら、1・2軍を総取っ換えするくらいの荒療治をすべきだろう。名もない育成ルーキーに「金の卵」がいるかもしれないし、レギュラー落ちを経て別人のように奮起するベテランが出てくるかもしれない。政治の世界でも多少の失敗は覚悟のうえ、野党を勝たせたり与党に戻したり、「取っ換え引っ換え」の試行錯誤のうえにしか、「着実な国の衰亡」から抜け出す方策は生まれないように思う。
先々週の『週刊文春』は、岸田首相の起死回生策として6月解散説が燻ぶるなか、「衆院選激戦区予測」と銘打って、「自公83議席減!過半数割れで自民分裂」という記事を掲載した。選挙直近の予測だとどうしても精度が問われるが、ここまで「フワっとした時点」の予測記事は「正確さよりセンセーショナルな展開」を狙いがちだ。それにしても、自公のそんな大敗が仮に起きた場合、「非自公共」で維新、国民民主も含めた野党の連立政権もあり得るし、自民総裁選を経て敗者が新党結成に打って出る可能性もあるという。
今週の『サンデー毎日』に載ったジャーナリスト鈴木哲夫氏の記事「破れかぶれ『6月解散』全真相」によれば、今月の3補選で自民党が3敗(すでに長崎3区と東京15区の不戦敗は確定)した場合、岸田首相の命運は尽きるという自民党内の見方がある一方、それでも岸田氏は6月末の解散に打って出ると見る関係者もいるらしい。
また、現在発売中の『週刊現代』は「倒閣前夜 そして次の総理は二人に絞られた」という記事で、9月の自民党総裁選まで解散はない前提で、3補選での敗北後、次期総裁を目指す茂木敏充・幹事長および石破茂・元幹事長の周辺から「岸田おろし」の動きが始まるという。現代の同じ号では元自民党事務局長の久米晃氏とTBSコメンテーターの星浩氏が対談、「次の衆院選で、自民党は負ける」という記事になっている。久米氏は自民党内に反岸田の声が上がらない現状を「人材の砂漠」と嘆き、6月解散の可能性はないと見るものの、次の総裁のもとでの選挙でも「自民党は負ける」と断じている。
今週の『週刊文春』で面白かったのは、対談ページ「阿川佐和子のこの人に会いたい」で、共産党委員長を退いた志位和夫氏をゲストにした阿川氏とのやり取りだ。阿川氏は父親の作家・阿川弘之氏がゴリゴリの保守論客だったこともあり、自身も左派的なスタンスとは距離を置くが、日中の共産党の関係やロシアとの歴史的関係など、さまざまな「素朴な疑問」をぶつけてのやり取りはフラットでとても興味深かった。思えば平成前半までのメディアでは、このように「異なる立場」を踏まえての対談やインタビューはごく普通に見かけたものだった。近年は右は右、左は左同士でばかり話をして、お互いを深く知ろうとする座談はあまり見ない。政治家同士のやり取りも然り。他党への基礎知識を欠いたまま思い込みで罵倒する「幼稚な激論」だけが目立つようになった。
………………………………………………………………
三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。