昨今、スーパー店内の「イートイン」が復活しているようだ。イートインとはEat Inの略なのだろう。スーパー内に休憩できるようにテーブルとイスが用意されたスペースで、店内で買った食品を食べることができるようになっている。
私が住んでいるのは郊外も郊外で、私鉄の駅と駅の中間のせいか、駅前以外にも食品スーパーが数件ある。たぶん、競争が激しいのだろう、新聞の折り込み広告が毎週2回くらい入っている。スーパーの店長に聞くと、テレビや新聞の広告は企業全体の広告であって、売り上げにはあまり関係がない。店舗の売り上げを上げるのに最も効果があるのは、今も昔も新聞の折り込みだという。
余談だが、週刊誌記者時代には内部告発が結構多かった。その中には企画にならないものも多い。たとえば、東京・下町の区議会事務局の人の訴えにはこんなのがあった。毎年、区議会議員は海外視察を行なっていて、当選1~2回生の議員が幹事になって視察先を決める慣わしになっているそうだ。
で、幹事が「今年はどこにしようか?」と同僚区議に尋ねたら、最古参の議員が大声で「オレはアメリカやヨーロッパには何度か行ったが、まだニュージーランドに行ったことがない」と叫んだ。この一言で、海外視察はニュージーランドに決まった。こんな海外視察でいいのか、という訴えだった。
また、ある新聞専売店の人は「どこの専売店も配達部数を実部数ではなく、サバを読んだ部数にしている」と言うのだ。雑誌も公表部数と実部数があるから、一概にケシカランとは言えない、と言うと、新聞専売店の人はこう反論した。
「雑誌ならいいですよ。新聞には織り込み広告があり、そのなかには市区町村からの広報紙があるんです。お知らせだとか、ゴミの出し方などです。これは一部について7円の手数料がかかります」。おそらく、今なら10円以上しているだろう。
そして、「専売店にとって折り込み広告は重要な収入源です。その費用は専売店の公表部数に応じて自治体から専売店に支払われる。公表配達部数は実部数を下回っているから、余った広報紙は捨てているんです。自治体は専売店の公表配達部数を信頼するしかないのでしょうが、元は税金だし、これは詐欺ではないのでしょうか」と続けた。記事にはできなかったが、内部告発の指摘通りだろう。
話をイートインに戻す。新型コロナ感染症の拡大前は、家の近くのスーパーではイートインスペースでは女子中学生2~3人がジュースを手に教科書とノートを広げながら勉強していた。菓子パンを頬張っている子もいた。この年頃の子は自宅でひとりで勉強するより、同級生と一緒に勉強しているほうがいいのだろう、と、微笑ましく思っていた。
このスーパーから1キロ近く離れた別の新設食品スーパーのイートインスペースでは男子中学生が2~3人、あるいはひとりで窓際の席でスマホを手にゲームをよくやっていた。
そんなところに起こったのが新型コロナ感染症の拡大だ。スーパーはイートインのテーブルを片づけ、椅子の数を減らした。なかにはイートインを閉鎖したところもあった。そして新型コロナが沈静化し、スーパーはテーブルとイスを元に戻した。ところが、女子中学生は戻って来ない。
スーパーに行くたびに注意して見ているが、イートインのイスに座っているのは大概、お婆さんだ。休んでいるのだろう。少し離れた新設のスーパーでも同様だ。そこはお茶と水が無料で提供される自動給湯機があるせいもあるのだろうが、イートインを占拠しているのはお爺さんとお婆さんで、若者は滅多に見ない。
先日、たまたま昼過ぎに買い物に行った時には驚いた。ご高齢の婦人3人がおにぎりを頬張りながら井戸端会議をしていたかと思うと、お婆さんの後ろにお爺さんが続いていたのだが、お婆さんは小さいお弁当を、お爺さんはホットドッグのようなパンを手にしていた。お弁当もホットドッグも店内で買ったものだろう。
そして空いている席に陣取り、無料のお茶を呑みながら食事を始めた。家で食事を作るのは面倒だし、スーパーで販売しているもので昼食をすまそうというものだろう。まさしくイートインだ。
だが、消費税はどうなっているのだろう。確か、公明党が食品は8%に抑えることを条件に消費税引き上げに賛成し、10%が実現した。その時、食品を買って店内で食べる場合は8%ではなく、10%にすることになったはずだ。だが、今では有名無実である。スーパーのレジ係は「お持ち帰りですか? それとも店内で食べますか?」などと聞く暇はない。忙しいのだ。レジの機械も一律8%で計算する。レジも消費者も賢い。かくて持ち帰りだろうが、イートインで食べようが消費税に差はない。
しかし、イートインの利用者は中学生からお婆さん、お爺さんに代わった。これはベターなのだろうか。かつてコンビニには中高生の女性が買い物し、それを追って若い男の子がコンビニに群がった。だが、今ではコンビニにはスーパーまで行くのが面倒だからと、買い物に来る主婦や弁当を購入する大人や高齢者が主流になり、ひと頃のような話題にならなくなった。
ドラッグストアはマツキヨが100円で買える化粧品を並べ、女子中高生が群がる「マツキヨブーム」を起こした。それは街中の化粧品店が消えた瞬間でもある。今、ドラッグストアは調剤と食品で新たな収入源をつくりつつあるが、女子中高生の姿は少なくなっている。さて、イートインはどうなるのだろう。