5月12日(日)~5月26日(日) 東京・両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」など)


 小結大の里が初土俵から7場所目で賜杯を手にした。幕内から3連続の2ケタで12勝3敗。先場所の尊富士に続いて平幕力士の優勝、1横綱2大関の早期休場で番付崩壊。これで大の里が来場所連続優勝しようものなら、協会はどうするのか。大関昇進を一気に飛び越えて、その先のことも考えなくてはなるまい。


<「優勝しても喜ぶな」と師匠に言われた大の里>


初日で横綱・大関が休場の憂き目


 初日、横綱照ノ富士に早くも土。大の里の前進になす術もなく後退し、土俵際まで追い詰められた末に投げを打ちにいったところを逆に浴びせ返されて、掬い投げを食らった。古傷の両ひざは巨体を支える力がなく、威力のない投げは空回りに終わって惨めな敗戦だった。


<初日 照ノ富士―大の里>


 大関貴景勝は、元気者の平戸海(前頭2枚目)の押しにズルズルと後退、何もできないまま真っすぐに土俵を割った。優勝は4回しているが、このところカド番とカド番脱出を繰り返しているだけで、見せ場をつくったことがない。最後の優勝(昨年9月場所)では、優勝決定戦で新鋭の熱海富士相手に立ち合い変化して顰蹙を買ったのも記憶に新しい。


 照ノ富士は悲願の10ケタ優勝回数に大手をかけているが、完治しない膝の状態から見て、もはや不可能。貴景勝は致命傷の首痛で前途は悲観的。27歳とまだ若いが、ピークはすでに過ぎている。

 

霧島は出直し、親方は「生活態度見直し」指摘


 1勝5敗と勝ち越し不可能の星勘定になり、霧島は大関陥落を受け入れた。2場所前は横綱昇進をかけていた期待の大関がここまで落ちぶれるとは、意外だった。先代霧島親方が定年退職し、元横綱鶴竜の音羽山親方が後任の師匠になり、部屋も移籍した。付け人をしていた元横綱から、「日頃の態度、相撲への接し方、勝負に対する気持ち……いろいろなものを見つめ直さないといけない」とまで酷評された。


<来場所は関脇で再出発>


 父が大学教授とインテリの家系である鶴竜は別格としても、霧島の日本語はお世辞にも達者と言えない。ライバルの豊昇龍にも劣る。覚える気がないのではないか。首痛がもとで極度の不振に陥ったとの指摘が大勢だが、師匠が言いたいのは、相撲に対する真摯な姿勢である。不真面目ではないと思うが、物足りなさを感じる。昔から師弟関係にある音羽山親方が目をかけているのだから、いま一度相撲人生を一から見直して大関陥落を「奇貨」として出直してほしい。

 

チンピラ相撲の豊昇龍にカツ!


 その霧島に強い競争心を燃やす大関豊昇龍は、正真正銘のチンピラだった。9日目、ズル休みをしてこの日から6日ぶりに復帰した高安(前頭3枚目)との一番。例によって、相手よりも先に腰を下ろすのは屈辱と勘違いしているこの力士は、睨み合いを続け、先に腰を落として待つ元大関を睨みつけながら、ようやく手を付いて前に出た。


<9日目 豊昇龍―高安>


 しかし、高安が左下手から掬い投げを打ち、大関を転がす。館内が大いに湧き、ヒール大関は支度部屋に戻る途中、野次でも飛んだのか観客席を睨みつけた。昨年の豪の山との一戦以来、立ち合いの呼吸を合わせようともしない、了見の狭さを観客はよく知っている。八角理事長も「豊昇龍は手をつくのが遅い。それで自分のリズムを崩してしまった」と指摘。自業自得である。


番付崩壊は今後も続く


 横綱、大関が相次いで早期休場したが、来場所は大関霧島が陥落し、照ノ富士、貴景勝の出場も怪しい。豊昇龍はチンピラ相撲で悪役が板に付き、看板力士の名が廃っている。琴桜は13日目、控えで体を動かしてたっぷり汗をかいてきた湘南乃海に対して立ち合い変化。真っ向勝負と意気込んだ湘南乃海は悔し涙に暮れた。罪作りな大関である。


 翌日、琴桜は前日の一戦を悔いて自責の念にかられた。それを引きずり14日目は阿炎に元気なく敗れた。サラブレッドの琴桜だけは、卑怯相撲は取らないと信じていたが、賜杯がチラついて欲が出た。目先の勝負にこだわる間は、頂点は見えてこない。大の里ばかりが目立つのは、角界にとって好ましいものではない。正統派と見られた霧島が陥落し、希望の星はこの琴桜と、年内には昇進確実の大の里の2人では寂しい。平戸海や豪の山(前頭2枚目)あたりの押し相撲力士が、同じタイプの貴景勝の後継に入ってくれば面白くなるが……。


今場所のMVPは、あの名行司


 しかし、今場所を盛り上げた最大の功労者は、あの行司。衆目の一致するところだろう。土俵の中で戦っている力士から2度も袴を踏まれて転倒するのも初めてなら、挙句の果てに転んだままの態勢で軍配を返す空前絶後の大失態。生涯見たことがない光景が広がったのは、4日目の豊昇龍―平戸海戦である。


<4日目の豊昇龍―平戸海戦で世紀の大失態は起きた>


 2人が組み手争いをしている間に、庄之助は土俵際に詰まり、行き場を失う。そして、俵にかかった平戸海の左足に躓いて最初の転倒。起き上がるが今度は豊昇龍が平戸海を投げたところで、豊昇龍の右足が庄之助の袴を踏んで2度目の転倒。その時点で平戸海は土俵を割って転がっていたため、なんと転んだまま軍配を返したのである。


<空前絶後、抱腹絶倒、一世一代のハプニング⁉>


 相撲どころではなかった。何度見ても抱腹絶倒の一幕である。勝負が決した後、豊昇龍は倒れた行司を見て「どうしたの?」と覗き込んでいた。令和の名勝負として永遠に語り継がれることだろう。年内には定年退職を迎えて角界を去る名行司。どんな名優でもできない名演技。いい思い出になった。(三)