政治資金規正法をめぐる国会論戦と来たる東京都知事選への興味から、世は久しぶりに「政治の季節」になりつつある。しかし、テレビ・コメンテーターの見識はいつもながら低劣だし、久々に「追い風」を受ける野党第1党・立憲は立憲で、相変わらずネガキャンにすぐふらつき、どうにも頼りない。今回とくに感じるのは、「政治資金パーティーの禁止」という立憲案に向けられた「それを言うならば、隗より始めよ」という現状維持勢力からの難癖に、右往左往してしまった情けなさだ。


 矢面に立った岡田克也幹事長によれば、氏の場合、選挙区で私設秘書10人を雇う人件費に年間5500万円ほどかかるため、現状パーティー収入でそれを賄っているとのこと。自民党議員なども似た状況にあるわけだが、自民や維新、国民の一部、あるいは保守系コメンテーターが言う「禁止案を出すならまず立憲が自主的にパーティーをやめろ」という言い草に従うのは、禁止派議員だけがすぐにでも地元秘書ゼロでやっていく、と宣言することに等しい。


 この件はそれほどに政治家のあり方を根本から変える。前明石市長の泉房穂氏のように「政治活動に大金は不要」と言う人もいる。大量の私設秘書は「選挙区の支援者サービス」に必要なだけで、「政治活動」そのものとは無関係なのだと。パーティー禁止となれば、地元秘書はごくごく少人数に絞らざるを得なくなるだろう。全政治家が「よーいドン」でそうすれば、日本の選挙風土は一夜にして変わる。いわゆるドブ板式の選挙運動とは別次元のところで、政治家は競い合うようになるのだ。


 立憲自身がどれだけ自覚的に禁止案を出したのかはわからないが、この件は企業団体献金の禁止案とともに「政治とカネ」の最も大本を変えるポイントだ。「やりたいならまず自ら率先して」などと冷笑する面々は、とどのつまりそこまでの最深部にメスを入れさせたくないのである。


 法案審議中の限定的自粛は、「見え方の問題」「イメージ戦略」としてはわからなくもないが、パーティーの禁止案そのものを「非現実的な空論」という印象に持っていきたい現状維持派の口車に押されてしまうのは、いかにも(すぐ右往左往するという意味で)立憲らしく情けない限りだ。


 今週の『週刊ポスト』は、「証言 官房機密費」という特集記事を組んでいる。この件では5月10日付『中国新聞』が「選挙応援に行って機密費から100万円渡した」という官房長官経験者の証言をスクープしているが、テレビや新聞にこの件を深追いする動きはあまりない。官房機密費は「国家機密の保持」という名目で毎月約1億円が使途を明かさずに使えることになっているが、現実には国家機密でもなんでもない政権与党の政治的支出に使われてきた疑惑が改めて浮上してきているのだ。


 特集では、かつて官房副長官だった鈴木宗男氏が1998年の沖縄県知事選の際、3億円もの機密費を自民党候補の陣営に渡したと改めて証言、民主党・鳩山政権の平野博文官房長官(当時)は「情報収集が困難になるため」と使途を公開をしなかった言い訳を開陳、衆議院事務局職員などの経歴を持つ元参議院議員・平野貞夫氏は国会対策費として長らく野党議員に配られていたことなどを証言した。ジャーナリスト・田原総一朗氏は小渕政権時、彼自身が1000万円ものカネを渡されそうになった体験を語った。


 結局のところ、「国家機密にまつわる情報収集」としての支出など、あってもごくわずかで、政治的な裏金としての使途がほとんどであろうことは容易に想像がつく。国全体の地盤沈下がいよいよ深刻化するなかで、このような腐敗した政治的慣習は、いいかげん終わらせてほしい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。