別に蓮舫氏でも石丸伸二氏でも、はたまた一部の界隈で異様に注目されているAIエンジニアの候補・安野貴博氏でもいいのだが、小池百合子知事の2期8年を「是」として容認してしまうのは、一都民としてさすがに違うと思っている。今週の『週刊文春』や『週刊新潮』、あるいは『サンデー毎日』は都知事選投開票日直前になって、ようやく正面から彼女の2期を検証する記事を特集した。


 文春のタイトルは「『7つのゼロ』未達成より重要な真実 小池都知事の8年を完全検証する」、新潮にはメイン特集の「『巨額再開発事業』の本丸に『幹部14人が天下り』 『小池知事』が肥大させる『東京都』と『三井不動産』癒着の伏魔殿」のほか、元日経新聞記者・鈴木涼美氏の「『自分中心の物語』に酔い痴れる 『小池百合子』に問う 『東京』への『愛』はあるか」という記事もある。サン毎のジャーナリスト・鈴木哲夫氏による「最終盤、風は変わるか…… 逃げる小池、追う蓮舫と石丸」という記事は客観的な情勢の解説だが、毎日新聞専門編集委員・倉重篤郎氏の「ニュース最前線」のページでは元知事の舛添要一氏をインタビュー、「民主主義が壊れていく」「都知事は利権の巣、3期は長すぎる」と語らせている。


 新聞やテレビの情勢調査(世論調査)報道はナマの数値は出さないが、各社とも「リード」だの「優勢」だのという記事中の用語選択そのものが、2番手候補との数値差を厳密に反映した「置き換え」になっている。波乱含みの展開になる場合は「横一線」などと表現されることが多く、どちらの候補者名が先に書かれるかで、微細な数値の差を読み取れる形をとる。今回の場合は各紙の記事を見る限り、1位と2位の差はそれなりに開いていて、もしかしたら午後8時の開票開始とほぼ同時に、小池氏の当選速報が流れるかもしれない。


 で、小池都政をめぐる疑惑の数々は、そうやって当落が判明したあとの番組解説でサラリと触れられることになるのだろう。投票の目安になるそうした重要な情報を、なぜ投票日前に報道しないのか――。近年の選挙報道では毎度おなじみのテレビ批判だが、今回ほどその罪深さが際立つ選挙もそうそうない。そう、週刊誌メディアは終盤に来て上記のような踏み込んだ報道をしているが、テレビ報道は終始徹底して体制批判を回避した。「現職の強み」「安定感」などの表現で、小池氏の勝因が語られるとするならば、それは「過去2期の現実」をひた隠しにしたテレビ各局により広まったイメージに他ならない。


 それにしても、上記の記事で触れられた小池都政の腐敗はすさまじい。48億円もの巨費を投じて実施したプロジェクション・マッピングの受注者は、五輪談合により指名停止中の電通の100%子会社「電通ライブ」であり、しかも事実上の発注者は都であるにもかかわらず、実行委員会方式ということで契約内容は何ひとつ明かされない。文春の調べでは、これ以外にも電通グループは指名停止以後、計23件、約20億4000万円分の都の事業を受注しているという。神宮外苑の再開発を主導する三井不動産の子会社は、晴海の選手村跡地のマンション群を相場より9割も安く払い下げられている。


 正直、私自身、都政には長らく無関心でいて、選挙戦が近づくなか赤旗のスクープなどで次々暴かれる疑惑をネットで見て、小池都政の伏魔殿ぶりを初めて認識して驚愕した。それらをもし目にしていなければ、「現職としての安定感」「つつがなく都政運営をした8年間」というイメージを私も鵜呑みにしていたかもしれない。「報道の不在」はかくも恐ろしい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。