来たる24年10月1日から長期収載品に選定療養の仕組みが導入されるにあたり、厚労省から対象医薬品1,095品目のリストが公表されて2ヵ月。公表前は対象除外を求めるメーカーのロビー活動等が伝えられ、公表後は対象となる汎用薬やメーカーをピックアップした報道が目立った。そこで、改めて❶制度の趣旨、❷10月以降に想定される対象医薬品の処方から調剤・提供の流れ、❸薬効分類および企業別に見た対象医薬品をまとめた。


 ■医療保険財政の維持とイノベーション推進

 1年前、内閣府が示したいわゆる『骨太方針2023』の中長期経済財政運営「持続可能な社会保障制度の構築」の項目では、「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」を強調。創薬力強化に向けた各種イノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し・検討を進めるとされた。

 同年11月に財務省がまとめた『2024年度予算編成における課題』では冒頭、「支え手減少下での人材確保」「DX推進・デジタル技術活用」とともに「メリハリをつけた報酬改定」が主要課題とされた。3つめの課題の中で挙げられたのが、骨太方針の内容を受けた「創薬支援強化と長期収載品等の自己負担の在り方の見直し」だ。わが国における医薬品の市場規模は約10.4兆円、約19,400品目。うち新薬創出等加算対象の先発品が約3.4兆円(市場全体の32%)で約600品目。一方、長期収載品は約1.9兆円(同18%)、約1,700品目〈図:薬剤費の状況〉「国民皆保険の持続可能性」と「イノベーションの推進」を両立しながら、長期収載品に依存しない創薬開発型企業の転換を促していくためには、新薬のライフサイクルに着目しつつ、薬価制度の在り方を見直していく必要があると明記されている〈図:新薬のライフサイクルと薬価〉


 

 

■制度の趣旨説明や薬局での“医学的判断”は


 こうした背景のもと、厚労省が24年3月~4月にかけて制度の枠組みや具体的な対象医薬品を示し、具体的な姿が少しずつ見えてきた。


【対象医薬品の考え方】保険局医療課の事務連絡(24年4月11日付)では、以下3項目を全て満たすものを対象医薬品としている。今回の1,095品目は全体(約1,700品目)の約64%を占める。

(1)後発医薬品(GE)のある先発医薬品:いわゆる準先発品を含む。〔除外〕バイオ医薬品。

(2)組成および剤形区分が同一の品目、かつ「薬価基準へのGE初掲載からの期間」と「後発品置き換え率」で区分し、「初掲載から5年経過したもの」または「5年経過していないが置き換え率50%以上」のいずれかであること。〔除外〕5年経過しているが置き換え率1%未満の品目。

(3)長期収載品の薬価がGE薬価の最高価格を超えている:組成、規格、剤形ごとに判断。


【基本的な流れは二つ】保医発0327第10号(p.37~39)および第11号(24年3月27日付)をもとに、対象医薬品の処方から調剤・提供の流れを整理した〈図〉。この図は長期収載品の供給不足は考慮していない(図中にはないが保険薬局の在庫状況から、長期収載品に代えてGEを提供した場合は保険給付になると考えられる)。また、どのようなケースでも「長期収載品の選定療養」の適否を判断する前提として「患者に対して長期収載品の処方等・調剤に関する十分な情報提供がなされ、医療機関・薬局との関係において患者の自由な選択と同意があった場合に限られる」ことを見逃してはならない。

 新たな処方箋様式では「患者希望」欄が新設され、長期収載品の処方理由が明確化される。大枠として、銘柄名処方理由が「医療上必要」との判断に基づく場合は全額保険給付〈図中ケースA〉「患者希望」による場合は選定療養の対象となり患者に一部自己負担が生じる〈ケースD〉。自己負担分は、昨年末に財務相と厚労相が行った大臣折衝の結果、「長期収載品の薬価とGEの最高価格の差額の4分の1」とされた。また、選定療養を適用した場合、医療機関や薬局は、保険が適用される部分と自己負担分の徴収額を区分した領収書を交付する。


【問われる薬局薬剤師の真価】この二つの流れに加え、現場の実際を考慮した流れが複数ある。

 医師が「変更不可、患者希望のいずれにもチェックしていないにもかかわらず、長期収載品を(代表的製品名等で)銘柄名処方」あるいは「一般名処方」した場合、保険薬局で薬剤師の説明後に患者が❶GEを希望すれば全額保険給付〈ケースB〉。❷GEを希望したが薬局の在庫状況から提供困難で長期収載品を提供した場合は「患者希望」に基づくものではないため全額保険給付〈ケースC〉。一方、❸長期収載品を希望すれば選定療養の対象となり一部自己負担が生じる〈ケースD〉

 また、「患者希望」で長期収載品が銘柄名処方された場合も意思を再確認し、❹GEを希望した場合は全額保険給付になる〈ケースB〉

 さらに、薬局薬剤師が「患者が服用しにくい剤形」「長期収載費品とGE間の効能・効果の差異」などを理由に「GEでは適切な服用が困難」で「長期収載品を服用すべき」と判断した場合は、「医療上必要」の処方に準じて全額保険給付となる〈ケースA〉


 24年度の調剤報酬点数表では、薬学管理料の「かかりつけ薬剤師指導料」項目のうち「特定薬剤管理指導加算3-ロ 選定療養(長期収載品の選択)等の説明」に対して、対象薬の最初の処方時に1回5点を算定できるようになったが、ロの“説明”は単純ではない。


 保険医療機関や保険薬局は「長期収載品の選定療養」に関する十分な情報提供の一環として「制度の趣旨」を明示する必要がある。自己負担の大小が最大の関心事である国民が多い中、社会保障制度の持続性や創薬力強化など政策の大きな方向性をどう納得してもらうかは、大きな課題だろう。


 日本薬剤師会には、既に選定療養施行前の算定の可否に関する問い合わせが寄せられたことから、都道府県薬剤師会担当役員あてに日薬業発第93号(24年6月5日付)を発出。「選定療養の施行前・適用前に特定薬剤管理指導加算3の「ロ」(選定療養の対象となる長期収載品を選択しようとする患者への説明)に該当するとして算定を行うことは、現時点においては慎重に考えていただく必要がある」と釘を刺した。その理由の記述をかみ砕くと、「現状では診療・処方側とも環境が整っておらず、患者に対する十分な説明は難しい。今後、厚労省が示す(はずの)制度の詳細説明や計算方法を踏まえて保険医療機関・保険薬局での準備が進められていくので、現状での算定は控えてほしい」といった内容に読める。

 

       


■現場は実際どう動くのか 


 厚労省が公表したExcelデータをもとに、長期収載品1,095品目の内容を分析した。


【薬効分類別品目数:循環器とCNSで4割超】薬価基準収載医薬品コードから薬効分類別の品目数を見ると、循環器官用薬が約24%、中枢神経用薬が約21%だった〈図:薬効分類別〉

 主要分野について「繁用薬」「基本薬」「分野内で売上の大きい薬」「薬価に対する自己負担分の割合〔(薬価-GE最高価格)/薬価〕が大きい薬」などに注目してみた。

 特にデリケートな管理が必要な中枢神経用薬では、エビリファイ(大塚/9品目)、ジプレキサ(イーライリリー/7品目)、ロナセン(住友ファーマ/4品目)、イーケプラ(UCB/3品目)、ジェイゾロフト(ヴィアトリス/6品目)、リリカ(同/6品目)などが対象になっていた。

 一般報道やロビー活動で話題にのぼっていた外皮用薬のモーラス(久光/5品目)や皮膚科用薬のヒルドイド(マルホ/5品目)は、薬価が安くGE最高価格との差も大きくない。

 他分野より薬価が高い腫瘍用薬では、内用薬16品目、注射薬17品目が対象になっているが、選択理由は「医療上の必要」が主となるだろう。


【企業別品目数:10品目未満の企業も6割弱】該当の長期収載品を持つ企業は101社にのぼった。企業別では、田辺三菱、住友ファーマ、ヴィアトリスの3社が40品目超。品目数の多い企業はほとんど製薬協会員だった。ただ、武田系では武田テバが38品目であるのに対し、武田は13品目(アジルバとベネット/各3品目、リュープリン/2品目など)だった。一方で、10品目未満の企業は57社と半数以上を占め、ごく少ない企業も多かった(3品目/8社、2品目/14社、1品目/19社)。


【実施後の検証が重要】「長期収載品の選定療養」導入にあたっては、まず保険医療機関や保険薬局で働く医師・薬剤師自身が制度の趣旨と仕組みをよく理解し、混乱なく患者に伝え、運用する必要がある。そのためには、行政からの情報発信や現場の疑義の解決、職能団体のリーダーシップが欠かせない。メディアもミスリードしないよう心すべきだろう。しかし、「医療上必要」や「患者希望」がどの程度の割合になるかは流動的で、現状では何とも読めない。「国民皆保険の持続可能性」と「イノベーションの推進」両立という目的を達成する手段として適切・効果的か、検証し改善していく必要がある。


     

     


2024年6月19日時点の情報に基づき作成

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。