7月14日(日)~7月28日(日) 愛知県体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『取組動画』」など)


 照ノ富士が10度目の賜杯を抱き、目標としていた2ケタ優勝に到達した。尊富士、大の里と平幕力士の優勝が続いた番付崩壊に待ったをかけ、横綱の威信を守った。カド番と特例復帰で迎えた2人が討ち死、1人は最終盤に休場と脆弱大関陣は今回も奮起できなかった。満身創痍の一人横綱の心情はいかに。


■独走11日間も終盤息切れ


 5日目を終えて全勝の横綱は、いつになく体が動いていた。7日目は曲者の宇良(前頭4枚目)。例によって丸い土俵を縦横無尽に動き回るが、照ノ富士は落ち着いて仕留めに行く。横に振られ腕を取られても、前進しながら捕まえに出る。懐に入られて危ない場面もあったが、最後は宇良の息が上がった。肩に手をやって健闘を称える余裕の仕草を見せた。


<7日目/照ノ富士―宇良>


 しかし、11日目に不覚を取る。先場所優勝した大の里(関脇)は、得意の左回しを封じにくると読み、左回しを与えておいて右から出し投げを放つ。横綱は万全の体勢で寄り切ろうと土俵際まで押しに出たところを交わされ、見事に外へ飛ばされた。大の里の見事な頭脳プレーにしてやられた。


<11日目/照ノ富士―大の里>


 12日目の阿炎(関脇)、13日目の貴景勝(大関)は難なく退けたが、14日目の隆の勝(前頭6枚目)、千秋楽の琴桜と連敗し、勝ち残った隆の勝との決定戦にもつれ込む予想外の展開。終盤はスタミナが切れて足が出なくなり、まさかの失速だったが、3敗で優勝を手にして横綱の面子を守ったのだった。


■急成長と巻き返し


 今場所は、小結平戸海の成長ぶりが目を瞠った。初の三役で勝ち越すのも難しいのに、2ケタの白星は、技能賞だけでなく殊勲賞とのダブル受賞に値する。序盤は横綱、大関に敗れて2勝3敗と負けが先行したが、それ以降は8勝2敗と大きく星を伸ばした。


 11日目の熱海富士(前頭筆頭)は熱戦だった。重くて残り腰の熱海富士は小兵の平戸海にとっては難敵。回転の速い突っ張りで勝負するかと思われたが、左の前回しを取り、出し投げを繰り出して相手のバランスを崩したうえで、押し出した。離れて取るだけでなく、懐に入る技も身に付けた。技能賞を取った一番でもある。


<11日目/平戸海―熱海富士>


 平戸海を上回る活躍を見せたのが隆の勝。初日、2日目と連敗したにもかかわらず、3日目からは不戦勝を挟んで12勝1敗、中日から8連勝と破竹の勢いを見せた。千秋楽の大の里戦は会心の相撲。腰の重い相手にのど輪攻めで一気に土俵際まで詰め寄り、寄り切った。速攻相撲同士の一戦は、短いながらも見応えがあり、結びで控える横綱にプレッシャーをかけた。


<千秋楽/隆の勝―大の里>


 3年前までは大関候補の一角で、若隆景、豊昇龍、霧馬山(現霧島)らと昇進を競っていた。しかし、関脇から落ちて以降は、土俵際でばったり倒れるなど詰めの甘い取り口が増え、押しの迫力もなくなっていた。


 それまでの取り口では相撲のバリエーションが少なく、押し相撲の限界も見られたが、回しを取って寄り切ったり、投げを打つことも多くなった。「おにぎり君」の愛称のとおり、笑顔が人気の力士でファンも多い。若隆景とともに大関取りへの巻き返しが期待される。


■粗製乱造の大関昇進にメスを入れよ


 カド番の貴景勝、10勝挙げれば特例復帰の霧島。2大関の去就にも注目が集まった、と紋切り口調で言えば聞こえはいいが、関心を持っていた人はそう多くはないだろう。30場所務めた貴景勝は息も絶え絶えの表情で、見ているこちらが息苦しくなる。首痛というが肩の筋肉に埋没して首は見えず、どこにその痛みがあるのかと無礼なことを考えてしまうほどだ。


<4日目/貴景勝―翔猿>


 もともと取り口の少なさから、昇進条件の星勘定よりも将来を不安視されていた力士だっただけに、来るべき時が来たと言える。4日目の翔猿(前頭4枚目)は、突っ張りながらも回しを取られ、投げを打たれて自ら飛び出てしまった。持ち味の突っ張りが通用せず、惨めな一番だった。同じタイプの御嶽海が4場所で陥落し、正代も13場所で落ちた。それに比べたらマシなほうではあるが、4度も優勝した。そろそろ進退を極めたほうがいいのではないか。


 霧島はもっと悲惨である。昨年は綱取り場所で1勝足りずに大チャンスを逃し、そこから急降下し、スピード転落した。小柄ながらも四つ相撲だから昇進の目は大いにあったはずだが、一方で得意の型がなく、相撲の流れで勝っていたようにも見える。


 豊昇龍も霧島とタイプは似通っている。投げに執着して地道な相撲を取りたがらない。軽量力士ゆえに策に溺れる。残るは琴桜だが、坊ちゃん育ちでハングリー精神に欠ける。体格、技ともに優秀だが、メンタル面での成長がないと、綱は張れないだろう。


 協会の大看板である横綱の可能性まで見ていかないと、先は暗い。大関昇進の線引きは直近3場所33勝だけでなく、大関・横綱経験者で構成する「昇進委員会」のような常設組織を作り、議論を深めたうえで昇進を決めるべきではないか。(三)