今週の週刊誌は各誌ともお盆の合併号。年末年始やGWの号と同様に日持ちのする記事で「分厚い号」をつくるため、たとえば過去の「お騒がせ人間」の近況を追う手法などがしばしば取られるが、今週の『週刊新潮』はまさにそのド定番企画でありながら、ターゲットを国外に追うことで目先を変え、「これぞ世界仰天ニュース 国際版『あの人は今』」という新機軸を打ち出した。


 4本の記事から成るその内訳をタイトルで追うと、「クリントンと『ホワイトハウスの情事』モニカ・ルインスキーが仕掛ける『大統領選』キャンペーン」「北京五輪開会式の『口パク』少女 天と地の差が開いた『顔』と『声』のその後」「『このサルを、見よ』“残念すぎる修復画”のお婆さんが地元の『救世主』のワケ」「『金正男暗殺』であわや死刑に 姿を消した『二人の女』に残る不安」といったラインナップになっている。


 もちろんこのご時世、海外取材などできないため、おそらく現地語のネット媒体等に載った情報を寄せ集めたのだろう。「国際版のコタツ記事」と言ってしまえばそれまでだが、意外にもこの手の話題はあまり日本には入ってきておらず、どの記事も新鮮で面白く感じられた。個人的にとくに興味を覚えたのは、あの北京五輪開会式の少女歌手をめぐる話である。式典会場で口パクの演技をした「ビジュアルだけの歌姫」(当人はマイクのスイッチが切れていることを知らされず、声を出し懸命に歌っていたそうだが)と、表舞台に立たぬまま「歌声だけを提供した覆面歌手」の2人の物語だ。


 記事によれば、口パク少女のほうはその可憐なルックスで一躍人気者になり、五輪後も子役タレントとして活躍したのだが、成長して名門音大への受験に失敗、その人生は暗転してしまう。一方、黒子だった少女歌手のほうは学業に秀で、現在は米国の大学に進学し、学外ではバンド活動も楽しんでいるとのこと。ただし、記事中の情報は「中国事情に詳しい(日本人)フリーライターによれば~」とあるだけで、具体的なソースの明記はない。あの五輪での騒動は現地メディアで触れられる話題なのか。それとも上記の諸々の情報は、SNS等で広まった伝聞がベースなのか。本当はその辺の事情をこそ知りたく思うのだが、自社取材をしていない負い目があるせいか、その点はボカして書かれている。


『週刊文春』では今週からノンフィクション作家・石井妙子氏による連載ノンフィクション「ウェンカムイ 死刑囚・木嶋佳苗の生痕」が始まった。婚活や結婚詐欺で交際したシニア男性に多額のカネを貢がせて次々殺害した衝撃の事件を再検証する作品で、著者はまず木嶋死刑囚(49)の故郷・北海道別海町に飛び、彼女が30歳のとき、その父親が海沿いの崖から車ごと崖下に突っ込んだ自殺現場に足を運んでいる。


 ちなみに、タイトルにある「生痕」(せいこん)とは「堆積物の中にある生物の痕跡」を指し、「ウェンカムイ」とは、アイヌ語で「悪い神」を意味する言葉らしい。アイヌの民は古来、ヒグマを聖なる神(カムイ)として敬ったが、人を襲い人肉の味を覚えたヒグマはウェンカムイと呼び忌み嫌った。木嶋死刑囚の若き日に「人肉の味」を覚えるような「何か」があり、それが彼女の異様な人格をつくり上げたのではないか――。筆者はそんな仮説を立て、彼女の過去を掘り下げてゆく。作品の重厚な導入部からは、そんな取材意図が明確に読み取れる。


『国際版「あの人は今」』にせよ「ウェンカムイ」にせよ、雑誌記事の真価はやはり「ストーリー」にこそある。改めてそう感じる。そして良質なストーリー作品には、綿密な取材がどうしても必要だ。それはもうないものねだりの時代になっていると知りつつも、総合雑誌にはどうしてもそれを期待してしまう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。