歴史学者・清水克行氏の『週刊文春』連載「室町ワンダーランド」に今週、「へぇ」と声を挙げたくなる「トリビア」(豆知識)が載っていた。戦国時代のキリシタンのなかに、来日宣教師さえドン引きするカルト的グループがあったという。みすぼらしい身なりで上半身は裸。握りしめたムチで自分の体を打ち、うめき声を挙げながら往来を練り歩いた。


 ヨーロッパで14世紀に流行した「ムチ打ち苦行」が伝わったらしいが、ローマ法王は「異端」としてこれを禁止、日本が戦国期になる頃には、ヨーロッパではすっかり廃れていた。来日宣教師が残した記録には「日本の風習」と誤解した記述もあるという。


 映画『ダ・ヴィンチ・コード』にも、自傷行為を繰り返す「修行僧の殺し屋」が出てきたが、こういった過激な信仰形態が日本で広まった背景には、日本人独特の「秘蹟好き」という気質が指摘されるらしい。清水氏は「(日本人は)意外にマゾヒスティックなムチ打ち苦行と親和性が高かった」と推察する。


 台風10号の動きに日々掻き消され、このところ政界ニュースは少ないが、今週の週刊誌を見渡すと、自民党総裁選レースでは、小泉進次郎・元環境相が最有力と見なされているようだ。早くも話題を解散・総選挙にすっ飛ばし、「10・27秋の永田町騒乱 いきなり総選挙 進次郎はどれだけ勝てるか 全国289選挙区全予測」と先走る『週刊現代』は、政治評論家・有馬晴海氏の「すでに総裁選の趨勢は決しています」というコメントで記事を書き起こす。決選投票に進出するのは進次郎氏と石破茂・元幹事長でほぼ決まり、その勝者は進次郎氏になるはずだと。


 その見方はもはや一般的なのか、各誌とも総裁選特集では真っ先に進次郎氏を取り上げている。「小泉進次郎を襲う『女子アナ包囲網』と『裏金議員に刺客情報』」(『週刊文春』)、「自民党がすがる総裁候補 小泉進次郎の空虚な実像」(『週刊新潮』)、「パリピ小泉進次郎の不透明過ぎる“パーティー錬金術”」(『週刊ポスト』)といった具合だ。


 進次郎氏と言えば、「気候変動問題はセクシーに取り組むべき」「プラスチックの原料は石油です。あまり知られていないですけど」等々の「おバカ迷言」が知れ渡り、初当選時のサラブレッド感は色褪せてしまったが、これらの記事を読むと、たとえば米国の超名門・コロンビア大学大学院への進学で、当時の米政権高官らの助言を受け「条件付き」の変則的合格を勝ち取ったこと(新潮記事)、パーティー券購入者を20万円分まで匿名にできる仕組みをフル活用、党内屈指の集金力を誇るのに収支報告書で氏名を公表した購入者はゼロだったこと(ポスト記事)等々、かなりしたたかな人物像も浮かび上がる。


 私は2009年、彼の初陣の際、世襲議員の特集記事のため横須賀の選挙区を訪ねている。爽やかなルックス、堂々とした演説ぶり。自民党が野党に転落した大逆風の選挙にもかかわらず、彼だけは別次元の圧勝ぶりだった。一方で彼は「親の七光り」等々の批判をあからさまに嫌がった。いっそのこと、親とは違う選挙区で立てば清新なイメージを徹底できたのに……。当時はそんなことも考えたが、上記の記事を見ると、当人は必ずしも「公正さ」にこだわるタイプではないらしい。それにしても「小泉進次郎政権誕生」となると、この国の迷走はいよいよ本格化するだろう。ならば、とことんハチャメチャな永田町を見てみたい気もする。令和に生きる私にも「民族的マゾ気質」は受け継がれているようである。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。