いろいろな業界でそう言うのかもしれないが、出版業界では年末年始にゆっくり休むために、12月に前倒しで作業をすることを「年末進行」と呼ぶ。そして、ゴールデンウィークやお盆の前と同様に、週刊誌の「合併号」を出す。


 2週分の内容を1冊に、という建前だが、要は1週間休む代わりに、その前の号をやや分厚くする、という話。今週の各誌はみな、そのようなお正月の合併号である。


 興味深かったのは、新潮で安倍首相が、そのブレーンとも言われる桜井よしこ氏のインタビューを受けていることだ。「日本経済の『先行き不安』説に答える!」。タイトルには麗々しく、そう謳われているが、2人のやり取りは微妙にすれ違っている。


 円安の先行きを危ぶむ声も出ています——。


 そんな桜井氏の問いかけに、安倍首相は「だからといって、民主党政権下の行き過ぎた円高に戻っていいはずはありません」と述べ、円安によってメーカーの海外移転が減速したことなど、プラス面をただひたすら強調する。


 反面、輸入される原材料や食料品が高騰してしまう問題もある、と桜井氏は食い下がるが、それでも首相はひるまない。中小企業への低利融資などの対策にチラリと触れるだけで、あとはまた、外国人旅行者の増大がいかにメリットをもたらしているか、と円安礼賛を延々と語ってみせるのだ。


 後半は集団的自衛権や改憲など、2人の一致するテーマにやり取りは移行する。つまり、タイトルに謳われた「不安」には結局、満足に答えはしないのである。


 総選挙の開票日、日テレ「ニュースZERO」の中継インタビューを受け、厳しい質問に立腹してイヤホンを外してしまった安倍首相だが、さかのぼれば8月に長崎の被爆者らと面談した際、集団的自衛権に納得できない、という被爆者の声をただひと言、「見解の相違です」とはねつけた場面も思い出してしまう。


 桜井氏は安倍首相への期待を随所ににじませたが、異論には耳を傾けない、という悪しきスタイルが、シンパとの対談でさえ出てしまうところが、何とも安倍首相らしい。


 さて、合併号と言えば、有名人にまつわる小ネタを集めた「ワイド特集」が定番である。見開きの記事には堪えられない些細なネタがほとんどで、あえて取り上げたくなる話も見当たらないのだが、計34本もの“超特大ワイド”をつくった文春のタイトルを眺めると、「ボブヘアに変身 小保方晴子に今も理研幹部はメロメロ」とか「野々村竜太郎 取り調べ中の頭髪は生まれたてのヒヨコ」「カメラ窃盗 水泳冨田に韓国から送られた決定的映像」「テレビで大嘘 佐村河内守が新垣隆に新たな指示書を送っていた!」等々、今年は“この手の人”がいかに多かったか、を改めて痛感させられる。


 真っ黒であることが完璧にバレてしまった人、ほとんど黒に近い灰色と世間には思われているが、現状ではかろうじてまだ断罪されていない人、双方が入り混じっているが、彼らに付きまとうイメージは似通っている。


 人の世に自己保身や詭弁は付き物ではあるのだが、今年の“名場面”で吐かれた台詞には、「狡猾な」とか「迫真の」といった形容の対極にある、大間抜けなものが、なぜか多かった。そのあまりにもバレバレの弁明を聞くたびに、いったい彼らはなぜ、こんなにも頑張ってしまうのか……と、人間の不可思議さを改めて考えさせられたものだった。


 今年を代表する漢字は、「税」よりも「嘘」のほうがよかったのではないか、などと、ふと思う年の瀬である。

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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。