「小泉進次郎 PR会社が全面バックアップ 颯爽たる出馬会見の全舞台裏」(『週刊新潮』)、「新ファーストレディは『最高のチーム』か? 滝クリの“聖域”」「進次郎『あの人は斜めからの評論ばかり』vs石破『立憲・野田には俺だよ』」(『週刊文春』)、「私が見た小泉進次郎の“素顔”」(『サンデー毎日』)、「小泉純一郎が動いた!」(『週刊ポスト』)、「進次郎政権の閣僚名簿」(『週刊現代』)……と、週刊誌各誌は今週も総裁選最有力と見なされる小泉進次郎氏に焦点を当てている。


 だが13日に報じられた日テレの「自民党党員・党友調査」によれば、次期総裁への人気度は石破茂氏、高市早苗氏、進次郎氏の順。前回調査と比べると、2位と3位が僅差だが入れ替わっている。果たしてこれはどういうことなのか。


「首相になってG7に出席されたら『知的レベルの低さ』で恥をかくのでは?」。出馬会見では、フリー記者によるそんな悪意に満ちた質問にも「私に足らないことがあるのは事実です。しかし、それを補ってくれる最高のチームをつくります」と、落ち着いて堂々と切り返した進次郎氏。だが、私が気になったのは別のことだ。スピード感を持って実現する、と列挙した公約のひとつ「解雇規制の見直し」が氏にとっての落とし穴にならないか、とふと思ったのだ。


 実は当人もそのリスクには気がついたようで、氏はその後、見直しの内容は「自由化でも緩和でもない」と強調した。だが、規制の緩和・見直しというワードは、人気宰相であった彼の父・純一郎氏につきまとう負のイメージ「格差拡大」を連想させ、何よりもそのブレーンだった新自由主義者・竹中平蔵氏を思い起こさせる。さらに言えば、純一郎政権の輝きよりあのころの新卒就職難、あるいはやや後の派遣切り、年越し派遣村等々の寒々しい光景が蘇ってしまうのだ。


「夫婦別姓問題の決着」というリベラルな公約も注目を集めたが、実際のところ、それがマイナスに働くのは、日本会議系の「岩盤保守層」に限定されるだろう。それよりも、やはり解雇規制見直しのほうがパワーワードである。「痛みを伴う改革」への苦々しい感情は、左右のイデオロギーを超え、幅広く共有されている。この点を見誤ると、氏にとっては命取りになりかねない。私は反射的にそう感じたのだ。


 ただ、日テレのそんな断片的報道を別にすれば、週刊誌各誌が報じているように、一般的な見立てはまず、石破氏と進次郎氏という一般人気のある(つまり党員・党友票が見込まれる)ふたりが決選投票に勝ち残るというものだ。そして、石破氏vs.進次郎氏の一騎打ちは、同僚議員に人気のない石破氏の弱みにつけ込んで、進次郎氏が勝ち抜ける――。ただし万が一、石破氏と高市氏の戦いになればどうなるのか。ここでも石破氏は同様の弱点をさらけ出すと予想される。そうなると抜本的党改革はおろか、統一教会との関係でも裏金議員の多さでも自民不信の「戦犯」が多い旧安倍派の面々に支えられ、清新な女性宰相が誕生するという皮肉な結果になるのである。


 かたや立憲民主党の代表選は、野田佳彦氏が優勢と伝えられているが、その背後には党内右派、首相経験者ならではの重量感、安定感が、今ひとつフワフワした進次郎氏と対峙したときに強みになるという期待がある。これが高市氏との対決となれば、話はまた別だ。旧安倍派の負の部分を引きずった新政権と戦うには、リベラル派の枝野幸男氏のほうがコントラストを打ち出しやすいだろう。そういった総選挙での展開も考えると、部外者の我々も自民総裁選・立憲代表戦をあれこれ興味深くウォッチできる。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。