9月8日(日)~9月22日(日) 東京・両国体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『取組動画』」など)
関脇大の里が場所前の予想どおり、危なげなく2度目の賜杯を手にした。不世出の大横綱大鵬を抜く新入幕から5場所目の大関昇進が事実上決まった。大関昇進前の3場所で2度の優勝は90年ぶりと異例づくめ。大関は飛び級で横綱昇進でもいいほどの強者ぶりだった。大関貴景勝が引退、ズッコケ行司の木村庄之助は惜しまれずに引退した。
突っ張り、押っ付け、自在の取り口
今場所の大の里は、一段と安定した取り口を見せた。初日こそ叩き込みだったが、押し出しで6勝、寄り切り4勝、突き出し、寄り倒しとワンサイドの内容で相手を圧倒した。押っ付けが厳しくなり、まわしを取らせるとうるさい力士には突っ張りと、終始自分の距離を保って腰を落として前に出た。脇の甘さは押っつけを強化して四つ相撲をさせなかった。14日目の豊昇龍戦。対戦成績で3敗の相手に突っ張りで前に出て、そのまま押し出し。どっちが大関がわからなかった。
10日目の関脇霧島戦は、悲惨だった。どう考えても勝ち目がない元大関は立ち合い変化したが、じっくり見られて、あっという間に土俵下。協会トップが呆れ返った。「まったく駄目」と本人。12勝3敗と久しぶりに2桁勝ったのに、この一番は、大関復帰に大きく響くことにならなければいいが、非常に印象が悪い。堂々と負けてほしいものだ。千秋楽は10敗している阿炎に引かれてあっけない2敗目を喫したが、優勝を決めた後の一番。大勢に影響はない。
今場所一番の取り組みが、12日目の若隆景(前頭7枚目)戦だ。ズンズンと前に出る大の里の威力を必死にこらえながら両差しを保った。最後は得意の残り腰で土俵際逆転。サヨナラヒット級の鮮やかな結末になった。大の里に勝つにはまわしを掴んで密着し、懐に飛び込んで押し出すか足をかけるかしか手はない。若隆景の取り口は今後、大の里攻略の指標になるのではないか。
<12日目/大の里vs若隆景>
不甲斐ないを通り越した2大関
琴桜、豊昇龍は今場所も不甲斐なかった。千秋楽は互助会相撲で仲良く8勝7敗。これを八百長と言わずしてなんと言おうか。琴桜は集中力が足りない。11日目、小結大栄翔を相手に突っ張りの応酬で攻め立てるが、根負けして土俵際までズルズルと後退、最後は腰が伸びて4敗目。優勝争いから完全に脱落した。取組後、支度部屋の風呂場で絶叫したらしいが、その闘志を土俵の上で見せろ、ということだ。風呂場で後悔しても遅い。角界のサラブレッド、恵まれ過ぎた環境でヌクヌクとし、漫然とした生活を過ごしているのではないか。相撲は一瞬で勝負が決まる。わずか4分の仕切りで集中力を高めるのは難しい。時間いっぱいになり最後の塩を撒く直前、鬼の形相になるが、それでは遅い。普段から、自分を律して集中力を瞬時に高めるような努力をしないと駄目だ。
<11日目/琴桜vs大栄翔>
豊昇龍は、相撲以前の問題である。6日目、力を付けてきた王鵬(前頭2枚目)との一番。すくい投げで敗れた後、審判席の親方から礼のやり直しを命じられた。いい加減に礼をしてサッサと花道から引き揚げようとするところを、呼び止められた。この人の非礼な土俵態度は毎場所のように話題になる。親方の躾けも問題だから、部屋全体で1年間30%減給くらいの罰を与えるべきだ。示しがつかない。
嫌われ者翔猿、「立ち合い変化」カード連発の遠藤
4日目の結び。琴桜と翔猿(前頭筆頭)の一番はもつれた。大関が優勢のうちに土俵際で投げ合いになったが、押し切って体が落ちた琴桜の手より一瞬遅く翔猿が足を残したように見えた。しかし、行司は大関に軍配。曲者に勝ち星が付かなかった。花道で悔しさのあまり大声を発し、支度部屋でも「感覚的には負けていない」と悔しがった。翔猿は何をしてくるかわからない力士。相手は警戒し過ぎて墓穴を掘ることが多々ある。
<4日目/琴桜vs翔猿>
取り口は常にエキセントリックで、正々堂々には程遠い。小兵ゆえの生き残り策といえなくはないが、見る者を感心させる内容とは言えない。同じ小兵で曲者は宇良や翠富士がいる。しかし、翔猿の相撲は、体格で劣る者に見られる取り口の小気味よさがない。売り出し中の小結平戸海も小さいが、堂々として外連味のない相撲を取り、館内を沸かせる。好みだろうが、翔猿の相撲はいつも腹の立つ思いで見ている。
遠藤(前頭8枚目)も大きくはない。人気者だが、8日目は湘南乃海、9日目は豪の山に対して連日の立ち合い変化。館内を溜め息で包んだ。6、7勝目を卑怯相撲で手に入れ、10日目に勝ち越しを狙ったが、若隆景に意趣返しの変化気味の立ち合いを食らい、土俵に転んだ。若隆景は勝って首を傾げ反省する素振りを見せたが、遠藤には妙薬になったか。そこから3連敗し、千秋楽でようやく勝ち越した。卑劣なことをやれば報いが来る。「立ち合い変化カード」は、使うなら1場所1回である。2度以上やるのは戯け者である。
技量不足の行司、呼び出しは土俵を去れ
お情けで大名跡を襲名した第38代木村庄之助がようやく、今場所で引退した。独りよがりで奇矯な発声、力士にぶつかり土俵下に転落すること数知れず。転んで勝ち名乗りの軍配を上げた唯一の行事として、その名は伝統ある「行司史」に負の遺産として長くその名を留める。定年退職を前にお情けで継いだ。昇進する理由はどこにも見当たらず、ひとえに協会の悪しき伝統のうえで実現したに過ぎない。来場所からは、歯切れのよい42代の式守伊之助が結びを務める。この人も62歳だから、3年以内に庄之助を継ぐのだろうが、精進してほしい。
<夏場所4日目/豊昇龍vs平戸海>
呼び出しの力量の劣化は、行司以上である。声量は絶対的に不足し、息継ぎもまずく、いつも聞いててズッコケる。38代庄之助と次郎のコンビは史上最悪で、ここまでヘタ同士が組むほうが難しいのではと思わせるほど、技量低下が甚だしい。力士が主役だが、それを呼び出す者も差配する者も昇格試験を導入すべきである。それを生業とするのなら、見て聞いて恥ずかしくない技量を披露すべきだ。それができない者は、土俵を去らなければならない。(三)