自民党総裁選は1次投票で2位だった石破茂氏が決選投票で高市早苗氏を逆転し、世間を驚かせた。事前の報道では、小泉進次郎氏を含めた三つ巴の戦いが1~2位の直接対決となる3ケース「小泉vs.石破」「小泉vs.高市」「高市vs.石破」という組み合わせ別に優劣が語られたが、国会議員票の動向でほぼ決まる決選投票では、同僚に不人気な石破氏がどうしても不利になる、ということで専門家の見方は大方重なっていた。
週刊誌の見立てもそうだった。選挙戦序盤では小泉氏が圧倒的優位と見る論調が支配的で、とくに『週刊現代』は「いきなり総選挙 進次郎はどれだけ勝てるか?」という特集を組んでみたり、「進次郎政権の『閣僚名簿』」なる記事を載せてみたり、異様なほど先走った誌面をつくっていた。他の週刊誌もそこまでは行かずとも、小泉氏にスポットを当てていた。
その後、党員・党友の意識調査により小泉氏の失速と高市氏の追い上げが伝えられ、各誌直近の報道では「小泉当確」のトーンは弱まったが、それでも石破氏の巻き返しを予測できた媒体はない。たとえば『週刊文春』では、「自民総裁選ファイナル」という特集を載せたものの、それを構成する3記事は「安倍が死の直前『高市早苗を応援しない』」、「進次郎『秘密のフィクサー』から700万円」、「嫌われ石破の組閣名簿がヤバい!」という順だった(それまでと違うのは、高市氏の記事が小泉氏の記事の前になった点だった)。『週刊新潮』の特集「空疎な自民党総裁選『進次郎』『高市』『石破』で囁かれる恐怖のシナリオ」でも、石破氏の話題は小泉氏、高市氏のことに触れたあと、3番目に登場した。
さすがの『週刊現代』も最新号においては「小泉氏決め打ちキャンペーン」をやめ、「次の総理とニッポンの論点」と銘打って3氏それぞれの政権が誕生した場合のケーススタディを、「経済・財政、雇用」、「社会保障・格差・地方創生」、「エネルギー・外交・霞が関改革」という3分野で検討する記事にした。逆に『週刊ポスト』はここに来て、「新聞・テレビが黙殺する驚異の『高市早苗現象』」という振り切った記事を載せた。
いずれにせよ、石破新総裁誕生という「大どんでん返し」を予測する記事は、最後まで見られなかったと言っていい。強いて言えば文春の特集中、匿名「政治部デスク」のコメントに「決選投票で『石破vs高市』の構図になると、(石破氏が)俄然有利となる」という見方が1ヵ所登場し、菅義偉・前首相らのグループや旧岸田派の票が決選では石破氏に流れるとしているが、あくまでもそのパターンは、石破氏に有利な「すべての条件が整って」初めて実現するという程度の書き方であった。
それにしても興味深いのは、総裁選終了後、ネットに見る「岩盤保守層」(安倍晋三元首相の熱狂的ファン層)の人々が、「日本終わった」などと選挙結果への剥き出しの嫌悪を示していることだ。昔から「軍事オタク」として知られる石破氏は、自衛隊の国防軍昇格を提唱してみせるなど、紛れもない「右派・タカ派」の政治家だが、いわゆる日本会議的「復古主義」とはハッキリ一線を引いていて、その部分で高市氏に期待する右派層とは違っている。
かたや野党第1党の立憲では、維新との連携まで模索する保守派のドン・野田佳彦氏が新代表となり、党の創設者・枝野幸男氏を推していた左派リベラル層を落胆させている。つまり、自民・立憲両党とも「中道寄り」の新リーダーになり、右派・左派の両サイドが冷や飯を食う構図になったわけだ。こうなると今後、与野党とも足元に路線対立の火種を抱える形になり、今後もさまざまな波乱がありそうで面白い。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。