首班指名を受ける前日から「戦後最短の解散」を公言してしまうなど、発言のブレやトーンダウンが目立つ石破茂内閣だが、裏金議員の公認に関しては、「原則(全員の)公認」という当初の方針を土壇場で一転させ、12人の候補者を非公認、他の問題議員にも比例区との重複立候補を認めない決断をした。そんなドタバタの日々を経て、総選挙は連休明けの15日にいよいよ公示される。
この間の経緯をきちんとフォローした週刊誌は、意外にも総裁選の半ばまで「新総裁は小泉進次郎氏で決まり」と大外れの報道をした『週刊現代』だけだ。『石破政権を徹底解剖する』と題した最新号の特集によれば、10月27日投票という日程は岸田文雄・前首相と森山裕・幹事長の間で早くから決められていて、石破氏はこれを受け入れるしかなかったという。裏金議員への原則公認方針も森山氏が考えたことだったが、石破氏は各メディアの世論調査で厳しい数字が出たのを見て、小泉選対委員長、赤沢亮正・経産相とともに渋る森山氏を口説き落とし、追加処分を認めさせたらしい。もちろん、旧安倍派はこれに猛反発、選挙後に「石破おろし」に動くことを公言する者もいるようだが、もはや石破氏には、党内抗争をためらう様子はないという。
『週刊文春』は「嘘つき石破茂にうっせぇわ!」という特集で、噂の美人秘書官にまつわるゴシップ的情報を報じたり、三原じゅん子・こども相、村上誠一郎・総務相らをめぐる問題を取り上げたりしているが、政局の核心たる石破氏vs.旧安倍派の確執に関しては、未だ突っ込んだ報道をしていない。「『安倍派潰し』では消えない『闇』特捜部が狙う自民党都連“裏金議員”」などの記事を載せた『週刊新潮』も、その点は同じだ。
今後の焦点はいよいよ選挙の行方になるわけだが、今回は自民単独で過半数の233議席を保てるか(①)、それとも連立する公明と合わせての過半数維持(②)になってしまうのか、はたまた自公過半数割れ(③)という大敗北もあり得るのか……。①あるいは②、その結果次第では党内抗争の深刻度も変わってくると予想されている。万が一③という事態になった場合、自公の下野よりも可能性が高いのは、一部野党を取り込んだ新たな連立の枠組みができることだという。そこでは、自民党の分裂や石破氏率いる自民主流派と野田佳彦代表ら立憲保守派との「大連立」の可能性までささやかれている。
自民への逆風が上記①~③のどのレベルに至るのか、その大まかな「風速」は、公示からほどなく報じられる各メディアの「序盤の情勢調査」を見る以外、感触をつかむ手立てはない。ちなみに『週刊ポスト』は政治ジャーナリスト・野上忠興氏の議席予測を載せ、自民は現有255議席から実に53議席を失って、公明と合わせても半数に届かない計227議席ほどに留まると予測した。
『週刊文春』は先週号に「政治広報システム研究所」代表・久保田正志氏の予測を載せ、自民は36議席減の219議席、自公併せた計244議席でかろうじて過半数を維持する、と報じている。とは言っても、現状では野党間の選挙協力が進む気配はなく、とくに共産候補の大量出馬により立憲の小選挙区得票が軒並み目減りすることを考えると、ポストや文春が言うような極端な展開にはリアリティーは感じない。何にせよ、今回有権者はどの程度の変化を望むのか、久々に興味深い選挙になってきた。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。