新薬が登場すると、解説資料に薬が効く仕組み、「作用メカニズム」に関する説明が入っていることも多い。専門的な内容が含まれているものもあり、昔学んだ化学や生物の知識を総動員しても理解に悪戦苦闘を迫られることもある。
『「なぜ薬が効くのか?」を超わかりやすく説明してみた』は、さまざまな分野の薬が効くメカニズムを解説した1冊だ。
扱う分野は幅広い。発熱・痛み、アレルギー、菌・ウイルス、生活習慣病、胃腸薬、精神科、がん、自己免疫疾患とメジャーな分野はひと通り網羅されている。
一見、一般向けのやさしそうなつくりで、タイトルには〈超わかりやすく〉とある。「全部知っていたら……」との懸念もありつつ手に取ったのだが、いい意味で裏切られた。細かい部分まで丁寧に解説されていて、知識のヌケ・モレの発見や深い理解につながった項目も多かった(一方で、構造式や化学式など、ある程度の予備知識が必要な難易度高めの内容もある)。
読み物として楽しめたのは、第2章。痛みや発熱が起こるメカニズムと、さまざまなタイプの解熱鎮痛薬の解説だ。薬の作用メカニズムが理解できると同時に、製品開発の世界も見えてくる。
100年以上使われてきたアスピリンやその後に登場したロキソプロフェン、イブプロフェンといった薬が登場するが、有効な薬がありながらも、効果の違いや副作用の違いで新たな薬が誕生する背景が見えてくる。それでも、微妙な効き方の違いから、古い薬が生き残り続けることもある。
コロナ禍で一躍注目を浴びたアセトアミノフェンは、医療用医薬品だけでなく、解熱鎮痛薬「カロナールA」「タイレノールA」やといったOTC医薬品にも含まれる有効成分。1950年代から使われる古い薬だが、なぜ効くのか?〈じつは、その詳細は明らかになっていません〉という。
「効くから効く」――。薬の中にはそうしたものも。わかりやすいところでは漢方薬などの伝統薬。効くことはわかっているものの、そのメカニズムはよくわかっていないものが少なからずある。一方で、安全性や使用上の注意は使用歴などからある程度わかっている。アセトアミノフェンもその一例だ。
さて、前述のアスピリンだが、〈時が経てば薬の役割も変わる〉として、解熱鎮痛薬とは別の用途でも用いられている。〈私たちの体に異常を引き起こす原因となる「血栓」ができるのを防〉ぐ、抗血小板薬として使われているのだ。
本稿の読者にとっては釈迦に説法だろうが、既存の薬から新たな薬効を見つけ出して薬を作り出す「ドラッグリポジショニング」の典型だ。安全性や使用上の注意についてはある程度判明しているため、開発の負担は小さくなる。
■抗ウイルス薬の開発が困難なワケ
コロナ禍でまずまず詳しくなったつもりだった細菌とウイルスの世界(国民の多くがそうかもしれない)だが、新たな発見もあった。本書では細菌とウイルスの違いとともに〈抗ウイルス薬の開発は困難〉な理由についても解説されている。
ウイルス薬の開発が困難な大きな理由のひとつは、その特性上、〈ウイルスを攻撃するために投与した薬が、人の細胞にも害を与えてしまう〉から。また、細菌は〈細胞壁とリボソームという共通するターゲットをもっているため、ある抗菌薬が多くの種類の細菌に効く〉一方で、抗ウイルス薬はウイルスごとに開発される。
コロナ禍では、新たなテクノロジーを用いた新型コロナウイルスワクチンが短期間に開発されたが、規模間や緊急性が異例ともいえるケースだった。ウイルスごとのマーケット規模や有効性・安全性の確認に要するコストも考慮すれば、少々特殊なケースに入るのかもしれない。
結局のところ、抗ウイルス薬のない感染症は、よく寝て休息をとり、〈対症療法と、自然の免疫に頼る〉しかない(現に“風邪”がそうだ)。
本書には、やや難易度の高いコンテンツが含まれる一方で、OTC医薬品(ロキソニン)のグレード別比較、注意したい薬・飲料・食事との「飲み合わせ」、服用のタイミングにおける「起床時」「食前」「食後」「食直後」の違いなど、即効性のあるコンテンツも数多い。
こうした平易なページを楽しみながら、必要に応じて個々の分野を調べていく辞書的な使い方もできそうな1冊である。(鎌)
<書籍データ>
山口悟著(ダイヤモンド社 1980円)