衆議院議員選挙が15日公示され、各メディアによる序盤情勢の調査結果が次々出ているが、自公の議席が減る方向は共通して指摘されるものの、「自民単独で過半数(233議席)維持」とするものから「自公併せて過半数」とするものまでその程度には幅があり、横一線で当落を競り合う激戦区の多さがうかがえる。今週の『週刊新潮』は、「10・27総選挙完全シミュレーション 石破“大敗”予測の衝撃」という特集で、そういった自公の「負け幅」の程度次第では、その後の政局が大きく変わってくる構図を示している。


 非公認議員を除外して247の改選前議席数を持つ自民は、公明の当選者と併せてギリギリ過半数を取る――。記事では、元自民党事務局長によるそんな見通しを紹介したうえで、万が一、自公合算でも過半数割れとなる場合は、石破茂首相は退陣を余儀なくされ、次の首相の座を林芳正氏と高市早苗氏が争う形になると予測する。新政権が新たな連立政党を取り込むのも、簡単に決まることではない。そしてまた、自公両党で過半数を維持できた場合でも、自民単独で233議席に届かない状況なら、高市氏や麻生太郎氏らが「石破おろし」に動き出す可能性はあり、「しばらく不安定な政局となる」という。


『週刊文春』は「『石破は危うい』『倒閣だ』安倍派裏金候補を連続直撃&当落リスト緊急公開!」という記事で、裏金問題で非公認となった候補者の選挙区を取材、石破氏への怨嗟の声を拾い上げている。当該12選挙区の当落予測では、三ツ林裕巳氏(埼玉13区)と平沢勝栄氏(東京17区)、西村康稔氏(兵庫9区)の3人に「安定」を意味するA評価が付くものの、他の9人にB評価(優勢)の者はなく、C⁺(やや優勢)がひとりいるだけだ。


 文春には総選挙とは別に、ちょっと目を引く記事が載っていた。「『#斎藤知事がんばれ』がネットを席巻する謎が解けた」。自身のパワハラ疑惑などを告発した部下を自死に追い込んで、兵庫県知事を失職した斎藤元彦氏は、知事与党だった自民や維新にも見放され、四面楚歌の状況下で出直し選挙に挑む形だが、SNS上には意外にも氏に対する応援メッセージが溢れているという。


 文春記事によればしかし、これら斎藤氏「ネット応援団」のアカウントには、先の東京都知事選でネット旋風を引き起こし、大健闘をした石丸伸二・前安芸高田市長の支持者と重なるものが目立つらしい。編集部が取材を進めると、「クラウドワークス」という求人サイトに「政治系チャンネル(石丸伸二・斎藤知事など)でのライターさんを募集します!」という求人広告が見つかったという。つまり、何者かが資金を出し、有償で石丸氏や斎藤氏の応援書き込みをする要員が集められていたというわけだ。都知事選での石丸フィーバーにも今回の斎藤フィーバーにも、その背後には共通する〝ネット軍師〟が存在するのかもしれない。


 似たような現象としては、今回の自民党総裁選で大方の予想を裏切って、高市氏の党員・党友票が石破氏を上回った躍進にも、ネット上の「高市フィーバー」と連動する潮流があったように感じられる。ひと昔前まで、ネット上のフィーバーは限定的であり、リアル社会の世論とは大きな乖離があるという見方が一般的だった。ところがここに来て、両者の関連は急速に強まってきた印象がある。しかももし、そのフィーバーを人為的に作り出す「ネット工作」のノウハウが確立し始めているとしたら……。今回の総選挙でも、不自然なSNS人気の盛り上がりがあちこちで見られるようならば、事前予測とは大分違う展開が見られるのかもしれない。それはそれで相当に危うさを感じる話だが。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。