いずれ来るとはわかってはいても、直面するまで情報収集に力が入らないのが介護である。ただでさえ、わかりにくい介護の制度だが、施設介護となるとさらに難しい。一見どの高齢施設も同じように介護に対応しているように見えるものの、実際にはそれぞれ得意不得意がある。知識がなければ、誤った選択をして巨額のカネを失うことになりかねない。
新薬が登場したものの、いまだ克服された病気とは言えない認知症。新薬開発など医療の面でも注目される病気だが、介護の面での重要度も極めて高い。国民生活基礎調査では、要介護者が「介護が必要になった理由」のトップ(23.6%、2022年)に認知症が挙げられている。
認知症の介護では身体介護に加えて、「BPSD」(周辺症状/行動・心理症状)への対応などが発生するため、施設選びの難易度はさらに上がる。
『マンガ 認知症【施設介護編】』は、認知症になった親族が施設に入居する際のノウハウを綴った1冊だ。認知症の家族の施設入居を考えている人にとっては、初歩からケースで学べる構成となっている。
認知症の人が入居する施設として、一般に「向いている」と言われるのが、「グループホーム」と「特別養護老人ホーム」(特養)だ。「介護付有料老人ホーム」(有料)や2017年の介護保険法の改正で新設された「介護医療院」も比較的向いているとされている(巨額の費用を負担できるなら超高級有料老人ホームも選択肢だろう)。
もっとも、介護を巡る環境は厳しさを増している昨今は、一概にどの施設がよいと言えない状況が生まれつつあるという。
原因のひとつは〈介護保険の状況が悪すぎるせいで、施設はどこも人手不足で職員が業務に追われている〉こと。介護業界はもともと人手不足だが、景気や一般企業の雇用の影響を強く受ける。一般企業で人手不足と賃上げが続くなか、介護業界の人材獲得はさらに厳しい状況になった。
人手不足の影響は深刻だ。職員と入居者のコミュニケーションがとりにくくなるばかりか、〈特養を建てても職員がいなくて開けられないという話は珍しくありません〉という。
高齢者の増加に伴って、財政状況がひっ迫しており、利用者からみた介護関連サービスは「改悪」の一途。かつて「安い施設」とみられていた特養も必ずしもそうではなくなった。2015年に要介護3以上でなければ入所できなくなったのに加えて、2021年の改訂で入居者の4割で食費が月2万2000円アップ。一定限度を超えた支払いを免除する補給給付も条件が厳しくなった。
その結果、かつては50万人を超えていた特養の待機者も、入居者の負担が増えた2022年4月の数字では27万5000人まで減っている。
介護保険制度で普及が進んだ認知症高齢者向けのグループホームは、時間の経過とともに、有りようが変化している。
本来グループホームは、スタッフの支援の下、残された機能や能力を使って、認知症の人たちが食事や掃除などの家事を行い共同生活する施設。しかし、〈入居して長年経つと認知症に加え身体の衰えも進み、また認知症の人の介護度が低く出てしまうという問題もあって、今は「ご飯を作って」なんて言っていられません〉という状況が生まれた。
■サ高住は絶対やめたほうがいい
著者が<要介護度の高い、とくに認知症がある人は絶対やめたほうがいい>というのが、「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)。国の補助金などもあって、数が増えたが、その中身は玉石混交である。
介護の観点では、〈介護型サ高住は全体の七%程度で、しかも行っているのはサービス計画程度。実際の介護サービスは他の機関への外注がほとんど〉だ。
介護付有料老人ホームに比べて入居時の費用が比較的安いことから選ばれるケースも多いが、外付けの介護サービスは、要介護度によっては介護費用が「青天井」になることがある(その意味では住宅型の有料老人ホームも同様のリスクがある)。
では、認知症の家族を抱えた人はどう施設を選べばいいのか?〈実態としては、施設のタイプよりも、個別の施設ごとの差のほうが大きい〉という。
著者いわく〈介護する人とされる人の両方が、死んだ魚のような目をしている施設はやめたほうがいい〉。これは介護施設を訪れてみれば、一目瞭然だ。なお、よく言われる「臭い」については、〈常時ひどいにおいがするということでなければ許してあげてほしい〉とのこと。何度か通ってみる必要があるだろう。
つまるところ、認知症介護には向かないタイプのサ高住などの施設を外し、懐具合を考慮したうえで、入居を希望する施設を実際に見学して決めるしかない。
それでも、経営母体が変わるなどして施設の経営方針が大きく変わることもあれば、個々の施設の職員が入れ替わって、雰囲気ががらりと変わることもある。施設選びの成否は、最善を尽くしたうえで、最後は「運」次第ということか。
認知症の治療法が確立されるのを待つほか「決定版」と呼べる対策はなさそうだ。(鎌)
<書籍データ>
佐藤眞一/小島美里(ちくま新書1034円)