「匿名アプリでの交渉記録を公開 闇バイト連続緊縛強盗に小誌記者が潜入した!」。今週の『週刊文春』には、そんなトップ記事が載っている。闇バイト募集と思われるいくつものアカウントにDMを送ってみたところ、シグナルやテレグラム等、匿名性の高い通信アプリに誘導する返信が次々と入ってくる。提示された依頼案件には、マンションのとある住民のベランダに生ごみを投げ入れる嫌がらせもあれば、婉曲に「タタキ」(強盗)の依頼を匂わせるものもある。取材記者はそうしたアプローチをするなかで、リクルーターと直接通話することに成功した。


 この案件はどうか、こんな仕事もある……。先方の持ち掛ける違法バイトにはさまざまなバリエーションがあり(なかには警視庁に潜入し、サイバー犯罪対策課職員の顔写真を撮ってほしいという仕事まである)興味深いのだが、ここでふと私は、つい最近ネットで見た「迷惑メール評論家」なる人物のWEB記事を思い出した。タイトルで「あまりにもバカが多いことに絶望」とうたった記事だった。ここで言う「バカ」とは、もちろん「騙される側」のことだ。それによれば、最近はリクルーターの側も、応募者のレベルを推し量る(つまり。なるべく『バカ』な応募者を選び出す)ようになっていて、「私がいくらスットボケてバカなフリをして近づいても」ものすごい精度で見抜かれてしまうという。


 だとすれば、文春記者がいくら純粋な「バイト応募者」を装っても、やりとりですぐ素性を見破られてしまうのではないか。そんなハラハラする思いで記事を読んだのだが、あいにくこの記事では通話の終わり方はハッキリ書かれていない。通読しての感想は、正直物足りない感じがした。応募者を装っての闇業者とのやりとりは、テレビの情報番組でも時々やっている。「天下の文春」ならではの、もう一歩の踏み込みがほしかった。


 とは言っても、それは容易でない。身分証などを提示して集合場所に行き、他の応募者と民家に押し入る直前まで行動を共にする――。現実には、途中離脱には相当な危険が伴うし、離脱し損ねてしまえば共犯者になってしまう。「理想的な展開」を勝手に思い描くなら、離脱逃走用の足(バイクや車)を持つ仲間を近くに待機させ、一瞬のスキを突いてギリギリで離脱する。そしてほぼ同じタイミング(強盗に押し入る直前)で警察が一味を検挙できるよう、集合地点から一味が移動する時点で待機スタッフが110番通報する。


 そんな綱渡りの芸当がもしできたなら、手に汗握る読み物になったことだろうが、警察からは必ずや大目玉を食らうだろう(世間からも大バッシングを受ける危険性がある)。となると、電話でのやりとりくらいで留めるのがやはり限界か。あと、それはそれとしてそろそろこの手の犯罪では、警察のおとり捜査を部分的にでも解禁していいような気がしている。


 17日は「狂乱の」兵庫県出直し知事選の投開票日だ。都知事選に24人もの候補を立て、ポスターのスペースを売り払ったN国党党首・立花孝志氏が、今回は自身の当選でなく、パワハラ等で県議会の総スカンを食った斎藤元彦前知事の返り咲き支援を目的に立候補、選挙戦をかき回している。彼らだけでなく全国各地から「迷惑系ユーチューバー」的な個人やグループが兵庫に大終結、デマや中傷を厭わない空前のキャンペーンで一時は信用を地に落とした斎藤氏のブームをつくり上げた。斎藤氏を「悲劇のヒーロー」とする大宣伝である。


 すでに斎藤氏の行くところ、黒山の人だかりだ。選挙結果がどちらに転んでも、ここまで盛り上がれば扇動は成功したも同然だ。都知事選での石丸現象に続く第2の成功事例として、今後無数の選挙でノウハウが模倣されてゆくだろう。運動体の攻撃性・クレージーさに恐れをなしたのか、主要メディアは選挙期間中、このカオスをほとんど黙殺した。今後たとえ事後的になってしまうにせよ、ネット解析などによる流言飛語の徹底検証が求められる。このままでは日本においても「トランプ的狂乱選挙」が定着してしまう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。