最近でもテレビの誤った医療・健康情報が問題視されることがあるが、ネット社会になって以降、インターネット上に怪しげな情報はあふれるばかり。SNSやリアルな人間関係からもたらされる伝聞情報まで含めれば、現代人は真偽のほどがわからない医療・健康情報に包囲されているといっても過言ではない。


 医療広告ガイドラインが整備され、「医療機関ネットパトロール」など、違反行為に対する広告の監視は強化されてきたが、美容、歯科、がんなどの分野を中心にいまだ数多くの違反が確認されている。


 医療情報リテラシーがなければ、無駄なカネを支払わされるばかりか、健康への悪影響も生じうるのだ。


『その医療情報は本当か』は、あふれかえる真偽不明の情報を読み解く知恵を授け、正しい情報にアクセスするための方法を指南してくれる1冊である。


 情報にリスクがあるのは広告だけではない。一般の人々が信用する新聞記事にも、〈「その根拠となる研究機関が特定できない」ものがいくつもあります〉という。


 医療・健康情報を読む際には、〈必ず、情報の出どころ(研究機関などの情報源)を確認する。出どころが明記されていない、あるいはよくわからない場合はその情報は信用しない〉ことだ。


 広く知られるようになった「エビデンス」という言葉について、本稿でも何度か取り上げてきた。いまや健康食品でもエビデンス云々を強調する時代になったが、「紅麹サプリ事件」を受けて、エビデンスの質が問われるようになりつつある。本書でもエビデンスの信頼性や強弱を示す「エビデンスレベル」についても詳しく解説している。


 ただし、一般の人にとってこのエビデンスレベルを理解して、自分が受ける医療や摂取する健康食品の評価をするのは難しい。また、信頼できる医療情報である診療ガイドラインについても、「理解するのは簡単ではない」と感じていたのだが、近年は〈一般向けの診療ガイドラインの解説書〉が整備され始めているという。

 

 試しに『患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023』を『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)』と読み比べてみたのだが、確かに一般向けのガイドはわかりやすい。患者のリテラシーを高めるためには、こうした一般向けの解説書が多くの疾患で整備されていくことが望まれる。

 

■20年後も有効は70%弱


 もっとも、医療・健康情報に関する知識を集めても必ずしも「万全」ではない。


 著者らはエビデンスレベルの高い論文の治療法について調査を行っているが、〈20年後も治療法の有効性が確認された論文が70%弱〉。エビデンスレベルが高くても、〈掲載されている情報のすべてが真実で、また、その後何年も有効であるとは言えない〉のである。


 また、論文の不正事件(「ディオバン事件」は記憶に新しい)や、ウェブ上の口コミ情報ではステマ(ステルスマーケティング)行為が起こることもある。


 もうひとつ、注意しておきたいのが「認知バイアス」。認識や思考、判断の偏りのことで、過去の経験や環境などを通して〈「自分の願望や期待を裏付けるような情報を追い、重視し、選んでいる」、また、「自分の願望や期待に反する情報は無視し、軽視し、排除している」〉ことにより生じる。


 まったく認知バイアスがない人というのも考えにくいが、医療情報に触れる際、認知バイアスで自身に都合よく解釈してしまっている可能性は自覚しておいた方がよさそうだ。


 劇的に効く、副作用なし、他に治療法がない、激安……、極端な医療情報に接したら要注意。〈おそらく真実は、「もっとも面白くないあたり(まあまあ効く~あまり効かない)」に落ち着く〉という著者の見解に賛同する。


「一般の人には難しい」と書いたものの、誰しも医療情報に接触する頻度を増やしていくことで、少しずつ理解が進む。本書にはさまざまな信頼できる医療情報へのアクセス方法、読み解き方が記されている。気になる病気や試してみたい治療法がある人は、本書を頼りに、正しい医療情報にアクセスしてみるといいだろう。(鎌)


<書籍データ>

その医療情報は本当か

田近亜蘭著(集英社新書1265円)