心の不調を抱えながら働き続けるものの、一向に生産性が上がらない――。
そんな人が手に取りたいのが、『産業医が教える 会社の休み方』だ。ここ10年ほどでメンタル不調による休職は珍しくなくなったものの、「自分がいないとこの仕事は回らない」と無理して働き続けるビジネスパーソンは少なくない。
とくに小規模の会社の会社ほど、〈周りに前例がなかったり、チームの人数も少なかったりして、「同僚に迷惑がかかるから」と、より躊躇される印象〉があるという。
実際、厚生労働省「令和5年『労働安全衛生調査(実態調査)の概況』」によれば、メンタル不調により1ヵ月以上休業した人数の割合は、事業所規模別で500~999人が1.2%に対し、10~29人が0.3%となっている(平均は0.6%)。
本書は数々のケースを見てきた産業医の観点から、〈正しく、適切で、安全な〉会社の休み方を解説している。メンタル不調に限らず健康のために大切なのは、まず〈休む〉こと。それとセットになる〈睡眠は、やっぱり大事〉である。
著者は、働く人のメンタル不調の〈ほとんどは「適応障害」〉だという。
落ち込んだり不安になったり……、似たような症状が出る「うつ病」と適応障害が〈大きく違うのは、ひとつは、適応障害のほうがストレスの原因がはっきりしていること〉である。
ビジネスパーソンの場合は、職場の人間関係、過重労働、仕事のミスマッチがストレスの原因となることが多い。だからこそ、休職で〈ストレス源から離れることが治療〉になる。
■本人が考えるほど休めないことはない
メンタルの不調を感じた場合、まず相談すべきは〈普段からコミュニケーションを取っている上長〉。とはいえ上長がストレス源となっているケースは少なからずある。その場合、総務や人事、産業医となるが、周囲の若手を見ていると、最初からメンタルクリニックへ行くケースも少なくない印象だ。
いずれにしても、本人が考えているほどに休めないことはない。通常は前任者や上司が業務内容を把握しているし、休職当初に多少の混乱が生じても何とかなる(する)ものだ。
気になる休職期間中の収入だが、会社に勤めている人なら「傷病手当金」(給与の3分の2)があるため収入ゼロにはならない(個人事業主は、民間保険でカバーできる場合もあるが、精神疾患については商品により条件が異なる)。
昇進・キャリアへの影響を心配する向きもあるだろうが、〈もといた部署・ポジションに戻るのが一般的〉。不調のまま働き続けるより、〈少し休んでリフレッシュしたあと、元気を取り戻してパフォーマンス高く働き続けるほうが、本人にとっても企業にとっても、ずっと素晴らしい〉。
では、休職期間をどう過ごすか?
まずはしっかり睡眠をとって体を休めること。
一方で、〈休職というのは労働者の権利でもありますが、一方では解雇の猶予期間という側面も〉ある。だからこそ、心身が回復してきたら、復職を見据えた「リハビリ」が必要だ。著者は、〈家事をする〉〈就業時間を意識して生活する〉〈就業時間を意識して能動的な作業をする〉の3つのステップで整えていくという。
近年はうつ病や適応障害などメンタルの不調で休職している人を対象に復職支援する「リワークプログラム」が増えており、再発のリスク低減に一役買っている。
ただし、その内容は施設によって異なるため、選ぶ際には注意が必要だ。〈ポイントは、ビジネスパーソン向けのプログラムを選ぶこと〉。
なお、前述の「労働安全衛生調査の概況」によれば、産業別では情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業、金融保険業といった業種で休業した人数の割合が多い。専門知識が必要とされる、いわゆる頭脳労働が多い業種だ。こうした業種に限らずではあるが、〈できる限りからっぽの頭で自分の時間を過ごす〉よう、日頃から心がけておきたい。(鎌)
<書籍データ>
薮野淳也著(中公新書ラクレ990円)