フジテレビに関連したタレント・中居正広氏の女性トラブルが、フジ本体の経営をも揺るがす様相を見せてきた。港浩一社長は17日の会見で、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げることを発表した。具体的な質問には「委員会に調査してもらう」と回答を控えたが、いずれ形になる委員会の報告次第では、社長以下幹部らの引責辞任にも波及しかねない雲行きになっている。


「トラブルの被害女性と中居氏の会合にフジ社員は関与していない」――。そんな強気のスタンスは、現時点もまだ変更していないが、ここまで「社の責任」を問う声に取り囲まれたのは、先週と今週、『週刊文春』が掲載した畳みかける追及記事の影響がある。先週号のほうは、被害女性(文春報道では事件により退社したフジの女性アナウンサーとされる)から被害翌日に相談を受けた上司・佐々木恭子アナにも言及した「中居正広 Ⅹ子さんの訴えを握り潰した『フジの3悪人』」という記事、今週号はさらに強烈な第3弾「中居正広 新たな性被害者フジ女性アナが爆弾告白『私もAさんフジ編成幹部に“献上”されました』」というものだ。


 疑惑の編成幹部を中心に、フジ社内には大物芸能人などへの接待に女性アナをあてがう「文化」があり、中居氏のトラブルは、そうした背景から発生したというのが文春報道の核心だ。今週の記事では、文春の直撃を受けた現役のフジ女性アナが2021年冬、高級ホテルの一室で編成幹部らが開いた接待の飲み会に同僚アナ2人と狩り出されたことを打ち明けている。その部屋では中居氏と大物芸能人、彼女とその同僚が最終的に2対2の形にされ、文春取材に対応したアナは中居氏ではないほうの芸能人が全裸で待つ寝室に引き入れられそうになったという。


 今週は各誌とも、この同じテーマを取り上げている。しかし『週刊新潮』は「テレビから抹殺された中居正広 『女性トラブル』の残された謎」、第1報をスクープした『女性セブン』にしても「中居正広 引退工作『さらばテレビ』」というように、まだ「タレント中居氏をめぐる醜聞」というレベルの報道に留まっている。『週刊現代』に出た記事も「渦中の女性が『これだけは言いたい』と口を開いた 中居正広トラブル被害者Ⅹ子さん『解決金9000万円もらってません!』」という程度のものだった。


 ところで、私自身は当該番組を視聴してないが、ネットニュースによればここ一両日、何人もの民放アナやフリーのアナたちがフジの問題を「一部週刊誌が報じているだけで、どこまで本当かわからない」とネット番組等で語っているらしい。彼女らはどこまでピンボケの「報道人」なのか。報道機関にいて「今回の事態がよくわからない」のなら、自分の手で取材すべきなのだ。そのうえで、文春が言うような構造的な問題と判断できたなら、英BBCのように硬派の番組をつくればいい。文春報道のミスリードが仮に見つかったら、それこそ入手した具体的データで文春を批判すべきなのだ。そもそも今回の文春にしたところで、『女性セブン』の後追いから取材を進めたに過ぎないのだ。


 いったいなぜ「週刊誌を真に受けるな」などという素人ユーチューバーじみた発言を各局アナはしているのか、本当に嘆かわしいことだ。底の浅いゴシップネタは脇に置くとしても(今回のフジの件はもちろんゴシップとは思っていない)、たとえば統一教会の問題にせよ、政治家たちの醜聞にせよ、文春並みに取材努力をしたテレビの記者たちなど、たとえ少数でも存在しているのか。他人事のように「たかが週刊誌」と蔑む女性アナたちには、そのことをぜひ聞いてみたい。少なくともスタジオでの「コタツ番組」で「真偽不明」などと賢しげに言うテレビ局員に比べれば、文春記者のほうがはるかに強烈なプロ根性を持つ。メディアの末端で生きてきたひとりとして、私は彼らをこそ信頼する。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。