『健康食品で死んではいけない』――。
少し前なら扇情的ともとられかねないが、多数の関連死が疑われる「紅麹サプリ事件」が起きた後だけに、現実味のあるタイトルの1冊である。
集計の定義によっても異なるが、9000億円とも、1兆円とも言われる「健康食品」市場。効果・効能が認められるOTC医薬品に匹敵する規模である一方、規制がゆるく、玉石混淆の会社が参入し、魚目混珠の製品が流通している世界だ。
「健康でありたい」と願う人々から、治療のような効果を期待する人、瘦身ほか美容目的の人まで、さまざまな用途で広く国民生活に浸透している。
以前にも健康食品に関する書籍を扱ってきたが、『健康食品で死んではいけない』は、そのリスクを中心に解説している。
「○○の△△個分の□□配合」「◎◎の▽▽個分の◇◇配合」といった健康食品の売り文句は、健康志向の消費者の興味をひくし、「天然」や「無農薬」といった言葉の響きは安全を想起させる。
だが、魚や肉、野菜など、食べ物の形で適量を食べていれば体によいものでも、乾燥や濃縮したものを多量に摂ると、健康被害をもたらすこともある。
加えて、医薬品と違って〈機能性や安全性について何の保証もない健康食品が多く販売〉されている。人が使用する際の効果のメカニズムや、用法・用量が、治験を通じて系統的に検証されていないのだ。
だからこそ、酒飲みの「二日酔い予防薬」の地位を確立していたウコンのように、後になって肝障害のリスクが指摘されるような健康食品が出てくる。
著者は、医師や薬剤師といった〈多くの医療識者は健康食品に対する知識は持っていない〉ことに警鐘を鳴らす。OTC医薬品の知識がない医療者にも遭遇するが、医師・薬剤師なら添付文書を読めば、その内容を理解できるだろう。
健康食品に関しては、前述のように科学的な根拠を持った形で調べられていないことや、規格化されていない製品が大半だ。情報も医薬品のように一定のルールで整理されていないことも多い。医薬品との相互作用についてもほとんど検証されていない。こうした点が医療関係者の知識不足につながっているのではないだろうか?
著者は、品質管理の面のリスクも指摘する。厳しい製造・品質管理の基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)が適用される医薬品と違い、〈機能性素材が過剰に入っていることが、特に微量で効果がある素材でよく見られる〉という。
■スタチンが入っていた紅麹
品質管理の面で思い起こされるのは、小林製薬の紅麴サプリ事件。工場で製品に青カビが混入したことで、毒性のある「プベルル酸」がつくられ死者や健康被害が発生した。
本書にも紅麴サプリ事件については1章を割いて詳細を解説しているが、気になったのは品質管理とは別の問題点、〈米紅麹には医薬品としても販売されているモナコリンKが入っている〉ことだ。
モナコリンKは高コレステロール治療薬のロバスタチンと同じ物質である。そのまま機能性表示食品として届け出すれば、医薬品を含む健康食品と判定して届け出は受理されないが、〈届け出た有効成分名は米紅麹ポリケチドだったので消費者庁は問題としなかった〉という。
時折、ステロイドやバイアグラの成分を含む「健康食品」がニュースになるケースがあるが、〈医薬品が医薬品名で届けたらダメなのに、医薬品を含む総称名なら機能性表示食品の場合OK〉ということだ。
この問題については、一部の学者や医療関係者、メディアが問題視していたが、「犯人」がプベルル酸に特定されたことで雲散霧消した感もある。しかし、他にも合法的に医薬品成分を含む健康食品の存在について指摘する声も上がっている。
消費者は「何だか体によさそうなもの」が大好きだ。安全な商品が並び、消費者が適切に購入、摂取できる仕組みの構築は不可欠だが、そもそも「健康食品」という名称が誤解や過剰な期待を生む原因になっていないだろうか? 改めて健康食品業界の課題を再認識させられた1冊だった。(鎌)
<書籍データ>
長村洋一著(講談社990円)