10月、かつての「体育の日」であったこの日。筆者(石井一久と誕生日が一日違い)と記者(和田毅と誕生日が十日違い)は新宿駅にいた。今回訪問するのは、鉄道情報システム株式会社(JRシステム)。同社がこの秋に上市したソフト『勤務シフト作成お助けマン』について、担当者に取材するためだ。



 そもそもなぜ、『勤務シフト作成お助けマン』について取り上げることになったのか? ハナシは1カ月前にさかのぼる。


記「筆者さん、最近、ぶらり旅やってないですよね」
筆「うん、そうだね」
記「そろそろやりませんか? ここ最近講演ばかりだし」
筆「でも、また展示会ってのも芸がないんじゃない?」
記「今回は展示会じゃありません。取材ですよ取材」
筆「ふ〜ん。で、どこにハナシを聞きにいくわけ?」


 というやりとりの末、当コーナー始まって初めてとなる「普通の取材」の敢行を決定。記者が経済紙での記事を読んで以来、気になっていたという『勤務シフト作成お助けマン』の開発元であるJRシステムを訪ねた。

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 筆者——JR以外のビジネスを展開するようになった経緯から教えてください。


JRシステム——当社は1986年、JR民営化時に設立されたのですが、その当時からJR以外のビジネスへのチャレンジを始めていました。こうしたビジネスのことを当社では「外販」と読んでいます。


 当社は「みどりの窓口」で予約・発券業務を行なう国内最大級のオンラインシステム(閉塞網)である『MARS(マルス)』の開発と運営を主力事業とし、その他にも運輸、物流、観光などの領域において情報システムを手掛けています。こうしたビジネスで培ったノウハウを活かして外販を強化、拡大するというのが、当社の基本的な戦略といえます。


筆者——その外販では、医療機関をターゲットとした勤務表作成支援ソフト『勤務シフト作成お助けマン』を上市しました。


JRシステム——医療機関で仕事をする看護師さんの勤務シフトは、実に複雑なものです。基本的な勤務時間でさえ「早出」「日勤」「準夜勤」「深夜勤」と4種類もあるうえ、2交代や3交代勤務に加え、「深夜勤の翌日は早出、日勤はNG」「連日の夜勤はNG」「夜勤にはベテランを入れる」「一緒に勤務するメンバーの組み合わせ」「夜勤、休暇の時間、日数の平等化」etcといった様々な条件を考慮して、勤務シフトを作成する必要があるんですね。


 この勤務表の作成にあたっては、「多忙な勤務時間内ではまとめきれない」と、自宅に持ち帰って1週間かけてコツコツ作る——というケースも多く、作成者(看護師長など)に大きな負担を強いていました。言葉を換えれば、使い勝手の良い勤務表作成支援ソフトの潜在的ニーズは非常に大きいと見込んでいたということです。


フルサイズ画面


 加えて当社では、外販強化のために兼ねてから数理技術を研究していましたし、これまでに培ってきた物流システム最適化などのノウハウもありました。これらを応用すれば、より実践的な勤務表作成支援ソフトを作れるのではないか? と考え、開発を進めました。

筆者——勤務表作成支援ソフトについては、他のソフト会社も開発しています。新製品の優位性はどこにあるのでしょうか? 経済紙では「短時間で自動作成できる点」を挙げていましたが……。


JRシステム——作成時間について、競合品との差はそこまで大きくありません。当社の『勤務シフト作成お助けマン』は50人分の勤務表を2分ほどで自動作成しますが、他社の製品もほぼ同じくらいの時間で作成します。では、どういう点で競合品に勝っているのか? といえば、「どのような条件を設定しても、ひとまず結果が出る」ことと「極めて詳細な条件設定が可能である」ことにあります。


「どのような条件を設定しても、ひとまず結果が出る」という点について、競合品では矛盾する条件や既定値を外れた設定で自動作成を行なうと、エラーが出てしまい、勤務表が出力されないんですね。最悪の場合、ハングアップ(=フリーズ)してしまうこともあります。コンピュータに詳しい人であれば「エラーならしょうがない」と考えるでしょうが、ライトユーザーの方の多くは、「なぜ、自動作成をクリックしたのに結果が出ないのか!」と思われるものです。ですから、エラーはエラーとしてデータに齟齬(そご)はあっても、ひとまず結果を出力するという仕様にしています。どんな条件を入れても、自動作成だけでハングアップすることは一切ありません。


 もう一つの「極めて詳細な条件設定が可能である」という点は、初めから医療機関の看護師の勤務表をターゲットに開発しているため、勤務形態だけでなく保険なども考慮した条件設定が可能となっています。「入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類(様式9)」にも対応しています。また、条件の優先順位だけでなく重要度に合わせて「必ず守る制約(指定制約)」と「できれば守る制約(希望制約)」も設定できますから、ワンストップですぐに使える勤務表を作成できます。


筆者——「詳細な条件設定が可能」ということは、逆に言えば設定すべき項目が多すぎるために「初期設定が難しい」ともいえますよね。ライトユーザーにとっては扱いにくいソフトなのではありませんか?


JRシステム——ですから営業にあたっては、まず既存の勤務表をいただき、これをベースに営業スタッフが『勤務シフト作成お助けマン』を使って新たな勤務表を自動作成する——というデモンストレーションを必ず行ないます。実際に勤務表を作り、納得していただいた上で使っていただくわけです。なお、初期設定が難しいという課題については、今後のバージョンアップでインターフェイスを大幅に改善することにより対応したいと考えています。


筆者——勤務表作成支援ソフトの今後の展開についてお聞かせください。


JRシステム——この秋より本格的に営業をスタートしましたが、導入された医療機関からの反応は上々です。『勤務シフト作成お助けマン』についていえば、アパレル業界や美容業界、介護業界、各種工場など、一般的に不規則な勤務形態の多い業界への浸透は期待できそうです。医療業界へのさらなる外販の拡大、例えば「電子カルテ」などへの参入については、現時点では考えていません。まずは、『勤務シフト作成お助けマン』を成功させたいですね。

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 貨物、物流システムでは日本屈指のノウハウを持つJRシステムが、このメリットを最大限に活かすべく、システムの根幹部分となる数理技術の研究を深堀りし、その成果を惜しみなくつぎ込んだ『勤務シフト作成お助けマン』。医療業界の視点から注目すべきポイントは、この新製品で開拓した医療業界への販路をどのように活かしていくのか? の一点にあるのではないだろうか。


 同社の持つノウハウには、例えば「院内物流システム」や「医薬品流通」そのものの効率化を、今以上に推し進めるだけのポテンシャルがあるといっていい。現時点では、医療業界への更なる展開は考えていないようだが、中長期的には、「製薬工場から医療機関までの物流網」や「院内物流システムのワンパッケージ化」などの領域で、同社が活躍する可能性も十分考えられそうだ。(有)


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鉄道情報システム株式会社(JRシステム)

勤務計画作成支援ソフト『勤務シフト作成お助マン』
http://www.jrs.co.jp/article.php/products_shift