昨年6月からゴルフレッスンを受けている。プロの無料動画が増え、上達の早道もあるにはあるが、見よう見まねが難しいスポーツ。一念発起といえば大袈裟だが、クルマで5分とかからない至近にあるので、金を払って教えてもらうことにした。


 大手ゴルフ関連企業が運営するスクールで、月謝は平日コースで14,000円あまり。受け放題で、月に何度受講してもいい。他のゴルフ教室も受講内容は同じ立て付けでのようだ。レッスンは1時間単位、1日2コマ受けてもよい。とはいえ「中期」高齢者、週5日通いつめでは体がもたない。せいぜいが週に3日といったところである。


高齢者の溜まり場と化した練習場


 レッスン受講最大の理由は言うまでもなく、思うように上達しないからだが、もうひとつある。打ちっぱなしの練習場が年寄りのサロンと化しているからだ。都心から1時間圏内のベッドタウン都市。近くには室内練習場が5件以上あり、河川敷にある広い打ちっぱなしもある。しかし、そのほとんどすべてが高齢者の溜まり場になっているのだ。老人が我が物顔でふんぞり返り、雰囲気の悪いことこのうえない。コースで他人がティーショットするときに、おしゃべりするか!



 サロン化していない練習場が1件だけあった。もっぱらそこを利用していたので、他の練習場もこんなものと考えていた。ところが後継者不足だったのか、利用者が減少し運営が厳しくなったのか、10年ほど前に閉鎖され、安売りで注目され始めた「業務スーパー」に取って代わった。確かその頃、県内を襲った台風による強風でゴルフ練習場の防護ネットを支える鉄柱が倒壊して周囲の住宅を圧し潰したことがあった。そんなことも影響したのか、地味ながら安くて使いやすいその練習場は惜しまれながら営業を終了した。


 その練習場がなくなったので、近隣の施設を探して2時間打ち放題1800円のところに通い始めた。するとどうだ。40打席くらいあるなかの3つほどの打席は飲みかけの缶飲料が置いてあるだけで、人の姿がなかった。受付前の喫茶スぺースで数人が談笑していた。一休みしているのだろう。まぁ、それはいい。しかし、戻ってきてからがうるさかった。あそこのコースがどうだとか、あいつのスイングは変わっているな、あれでよく打てるもんだとか、昨日見たゴルフ中継を蒸し返す。口はシングルである。


 会話はしばらく続き、クラブを握り始めたかと思うと会話しながら隣の御仁とスイング談議に花が咲く。こういうシーンが横一線に並ぶ40打席の中で2つ3つはあるのだ。だいたい2時間の打ち放題だから、こういうおしゃべりが最大2時間は続く。会話に飽きると今度は教え魔になる。若い女性の初心者など隣にいようものなら、飛んで火にいる夏の虫。ある日のこと。20歳代のOLと思しき女性が常連の隣の席を選んだ途端レッスンが始まった。10分くらいで泣きべそをかいていたのを見たことがある。



 河川敷の練習場はそれ以上だった。このへんでは最も広い練習場で、某ゴルフ倶楽部が併設しているから、人気がある。室内練習場に輪をかけて4~5人の年寄りグループが幅を利かせている。夏場になると強い日差しを避けて数少ない木陰の前にある打席が奪い合いになるが、そこも常連のグループが順番を回し独占している。屋外の施設で開放感があるから、何時間でも居座って離れようとしない。


少子高齢化の縮図を見る


 ならばと選んだのが、ゴルフ教室である。年寄りが多いのは想定内。ただ狭いところでプロが目を光らせている。延々と続くおしゃべりは、さすがにないだろうと思い、無料体験レッスンを経て入会した。平日コースにやってくるほとんどの人は、時間の制約がない高齢者が占める。


 自分のことを棚に上げて言わせてもらえば、定年退職後に始めたか、あるいは仕事をしている間に上達しなかった人たちのようだ。スイングが様(さま)になっていないのですぐにわかる。なかにはスポーツそのものに縁がなく、年老いてからでも始められると勧められたのだろう。そういう人は講師の話を素直に聞いて懸命にクラブを振るので好感が持てる。


 やっかいなのは、訳知り顔の人である。私などもその部類に入るから大きなことは言えない。しかし、分別はあるほうだ。できないときに言い訳は口にするが、指導されれば素直に耳を傾ける。70歳半ばと思しき某老人、夏場は白のU首のシャツ1枚とバミューダという軽装で、まず格好が宜しくない。縁側の夕涼みである。準備体操には加わらず、受付横の休憩室で新聞などを読んでいる。それが終わって打席に入ってくる。唯我独尊、傍若無人である。


 やがてマンツーマンのレッスンになると、プロに自説をぶつけてはその正当性を確認するのが常である。スイングについて何か聞いたのだろう。すると、「やっぱり!」などと得心するのである。何がやっぱりだ。聞いて呆れる。芯(しん)食ってねえよ、飛んでねえよ。悪態を付きたくなる。人間、品格は大事である。こうはなりたくない。反面教師である。



 若い人もたまにいる。もじもじと体をねじりながらスイングするが、一向に振らない。休憩しているときに指を折って数えたら、1球打つのに30秒かかっていた。そしてなにをするかというと、スマホで撮影した自分のスイングを動画で確認するのだ。動画を見て直せるのなら世話ない。近ごろはこの手合いがとても多い。それを奨励するプロが動画サイトに多いせいもある。彼らは自らの動画に誘引して稼ぎたいために「動画で確認しろ」とけしかける。そのことに気づかず動画を見れば上手くなると短絡しているのだ。


 この男は25歳くらいか。女性と同伴でやってくる。彼女が妻かわからないが、彼らは一生、2人でゴルフ場に行くのだと確信した。好きな女性とラウンドしたいのではなく、一緒に回る相手、仲間がいないのである。キャッチボールさえしたことのないような若者にゴルフ上達の秘訣を伝授するのは相当難しい。しかし、レッスン教室もビジネス。「だいぶよくなりましたよ~」などと、歯の浮くような美辞麗句。褒めるところを探すのに一苦労。ティーチングプロも大変だ。


 身の置き所がない高齢者の掃き溜めと化したゴルフ練習場。命よりも健康、上達よりも世間話。他者とコミュニケーションに不安がある若者は、スマホでスイングチェックし、生涯、連れ合いとの2サムでラウンドする宿命にある。現代の縮図を見た。(三)