中居正広氏の件をめぐるフジテレビの社員集会は、スポンサー問題や番組製作で苦労する社員らの突き上げで、4時間半にも及ぶ修羅場になったという。大多数の社員にしてみれば、守るべき社の体面の「防衛線」はとっくに決壊し、1日も早く膿を出し切りたいことだろう。それなのに現実の動きはただただもたついて、傷口を日々広げている。


 はっきりさせなければならないのは、今回の事案への幹部社員の関与の有無(①)、事案報告から約1年半、まともな対応が取られなかった理由(②)、そして女性アナを怪しげな接待に動員する悪習が、実は以前から常態化していたのではないかという疑惑(③)――という3点だ。ところが皮肉にも、事態収拾の責任者・港浩一社長その人こそ、上記3点の真相を知り尽くす「当事者中の当事者」ではないか、と疑われているのである。


 今週の週刊誌報道では、文春以外でほぼ初めて『週刊新潮』がフジ社内の事情に深く斬り込んだ。「『中居正広』問題で表面化した『フジテレビの病巣』 元女性社員が告発する『セクハラ』『パワハラ』『不正経理』『異様な社風』」という記事だ。証言を寄せた元社員によれば、世間でセクハラが問題視され始めたころ、フジ社内では「(それを言ったら)うちの社員はみんな逮捕だ」と冗談が交わされたという。


 そういった社風をまさに体現してきたのが、港社長その人だと記事は指摘する。無名に近かったとんねるずをバラエティに起用して成功し、社の幹部になった港氏だが、社長レースでは劣勢な立場にいたとのこと。港氏はそれを巻き返すために、芸能事務所の大物経営者を集めては、女性アナたちがこれを接待する飲み会を頻繁に開いた。この戦法がうまくはまり、芸能界の「ドン」たちに気に入られて、社長の座を射止めたという。


 つまり上記①~③で港氏は、直接的に疑惑を持たれている幹部社員の「師匠的立場」の人物のようなのだ。記者会見で性的接触を伴う会食について質問され、「そういうことはなかったと信じたい」などととぼけていい人ではなかったのだ。今週は『週刊文春』も追及記事の第4弾として「最後の面談では上機嫌で……フジ港浩一社長はⅩ子さんに謝罪しなかった」という記事を載せ、トップとしての責任を追及した。


 というわけで「一刻も早く膿を……」という社員たちの願いは、港氏の意思表示にかかっている。さすがに社員集会の席上で洗いざらい事実を告白し、「私は身を引くから、あとは新体制でよろしく」とやってしまったら、収拾のつかない大混乱に陥ったことだろう。それでも第三者委員会が動き出すのを待ち、そこでの聞き取りで口を開くという形にしたところで、湧き起る混乱にさほど違いはないように思える。むしろ形式を整えるだけの茶番劇をカットすることで、新生フジの船出は早まるのではないか。


 今後、港氏に懸念されるのは、自分の体面をできる限り守ろうと、暴かれたスキャンダルについてのみ、ちびちびと責任を認める「牛歩戦術」をとる場合だ。そもそも第三者委員会が徹底調査を目指しても、Ⅹ子さんのような被害者がどんどん出て来るとは限らない。とくに現役のアナたちは、証言することでのメリット・デメリットをどうしても考えてしまうだろう。港社長であれ、被害女性であれ、そうした個人的な「煩悩」を、この際いかにスッパリと断ち切れるか。フジ復活へのタイムスケジュール、そして会社全体の被害の大きさは、それ次第でだいぶ変わってくるはずだ。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。