1月12日(日)~1月26日(日) 東京・両国体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『取組動画』」など)


 満身創痍の照ノ富士が6日目に引退、ダブル昇進を目指していた2人のうち先場所準優勝の豊昇龍が3敗の巴戦を一発で決めて横綱昇進を手繰り寄せた。金看板を絶やしたくない協会が甘い判断を下すことが決定的になった。


悪癖を小道具に綱引き寄せる


 豊昇龍はモンゴル相撲の影響なのか、角界では小柄の部類なのにやたらと投げ飛ばすのが悪癖で、肩や腕を傷めることがあった。先場所の千秋楽で琴桜に負けたのがよほど堪えたらしく、今場所は投げを打って相手をぐらつかせてから寄り切る場面が目立った。投げないのではなく、押しや寄りで勝つために投げる。投げをいわば小道具として使う考えた相撲だった。


<石破首相みずから総理大臣杯を授与>


 長所でもあり欠点でもあるのが必要以上の闘志だ。このへんは案配が非常に難しい。なければ琴桜のようにダレた相撲になるし、出過ぎると中盤の連敗のように空回りする。心技体とはよくいったもので、あの狭い土俵の中では立ち合いとともにこの「気持ち」が勝負に最も大きな影響を及ぼす。綱を締めても課題は変わらない。


一転カド番、無様のひとこと


 綱取りから一転、カド番を迎えることになった大関琴桜は、場所前のけいこ総見の結果でこの事態が容易に想像できた。最後の仕切りで眉間に皺を寄せて闘志を燃やすが、この人がやる気を見せるのはこの一瞬だけ。呼び出しを受けて土俵に上がり仕切りを重ねている間に緊張感は見えない。同じ指摘を九重親方が今場所終盤にしていた。


<12日目/琴桜―尊富士>


 綱取りの重圧があったとはいえ、あまりにも無様な内容が多く、2桁の負け数はこれまで築いてきた実績を失った感がある。12日目の尊富士(前頭11枚目)はとりわけ惨めだった。振りほどいたような小兵力士の投げを食らってぐらつき、腰から落ちて転がった。13日目の金峰山(前頭14枚目)には一方的に押し込まれて10秒の電車道。いずれも優勝争いをしていたが、相手は平幕下位。大関の権威もなにもなかった。王鵬(前頭3枚目)と並ぶ角界のサラブレッド、恵まれた環境に甘えてここまで出世してきた。要は厳しさが足りないのだ。仕事に打ち込む真摯な姿勢がなければ頂点には登りつめられない。横綱挑戦は初めてだから、まだチャンスはある。


もうひとりのサラブレッド候補


 王鵬が今場所も心境著しいところを見せてくれた。4日目の関脇大栄翔戦、立ち合いは互角だったが一直線に押し込まれて足が俵に乗っかった。しかし、残り腰を発揮して大栄翔の左腕を掴みながら瀬戸際の引き落とし。体を半転させながら右足1本で見事に交わした。褒められた内容ではなかったが、これまでの消極的な王鵬なら諦めよく一気に持っていかれていた。この執念が急成長の大きな原動力だ。


 巴戦では自ら緊張感のなさを嘆いたが、来場所は小結・関脇の椅子が空くので、初の三役は確実。同期の豊昇龍はすでに大関に上がっているから、ゆっくりとはしておられない。


<4日目/王鵬―大栄翔>


奇策と演技、沸かせる人気者


 人気者宇良が二番、館内を沸かせた。4日目の高安(前頭8枚目)との一戦。例によって頭を付けて低い姿勢。高安が右上手まわしを取りにきたところで一段と頭を下げ、半回転しながら首を出して己が体をさらに回転。巨漢高安の左腕を取ったり気味に投げた。伝え反り(つたえぞり)が決まる。珍芸だが宇良得意の大技だった。


<4日目/高安戦(上)、10日目/若元春戦(下)>


 10日目の若元春戦はまた違った意味で面白かった。若元春は立ち合い右ひじを宇良の顎めがけて強烈にかました。宇良はこれに激高、しばし攻防のあと土俵中央でファイティングポーズ。4日目の伝え反りを繰り出そうとしたが、相撲巧者には通用せず、あえなく転がされた。正統派力士の若元春はこういう汚い手は使わないが、何度見てもあのエルボーチョップは狙いすました一撃だった。遺恨でもあるのか、次の場所が見ものになった。


呼び出し「浄化」に向け一歩


 立呼び出しの次郎が初場所を限りに定年引退した。先場所で退職した木村庄之助といい、角界史上最も下手な行司と呼び出しが土俵から消えたことになる。長年務め上げたことに敬意は表するが、技量不足は誰の目にも明らかだった。結びの一番を演出するこの2人がリタイアすることで、しっかりした技量を持つ後継者が出てくることを願わずにはおれない。


<音痴は呼び出しになってはいけない……>


 他の競技における審判に比べれば行司や呼び出しの重要性は決して高いものではないが、これを「神事」と協会が言うならば、重要性は低くない。ほれぼれするような声量を持った者だけが力士の名を呼ぶものと、古くからの相撲ファンは思っている。他にも仕事があると弁護する必要はない。呼び出しの名が付く以上、それが一番の仕事なのだ。土俵つくりは上手いが呼び出しは下手。音痴でいいわけがない。行司、呼び出しは力士と同様、土俵の上で仕事をする。技量審査の導入を強く望む。(三)