中居正広氏をめぐるフジテレビの問題で、『週刊文春』の初報(12月26日発売号)に事実と異なる点があったとして、今週号の巻末「編集長より」に訂正とお詫びが載り、今度はそのことが大騒ぎになっている。中居氏と被害女性Ⅹ子さんとのトラブルがあった一昨年6月の会合が、初報では「A氏からⅩ子さんに複数人での会食の誘いがあり、当日にA氏らがドタキャンしてⅩ子さんは中居氏と2人きりになった」とされていたが、その後、Ⅹ子さんは中居氏から直接誘いを受け、これを「A氏がセッティングしている会の“延長”と認識」して中居氏宅を訪れたことが判明、1月8日発売号の第2報から記述はそのように修正されている。
今週号で改めて「訂正」を出したのは、同じ号に載せた識者インタビューのうち、元大阪府知事の橋下徹氏から「しれっと誤りを上書きするのは不誠実」という指摘があったためだという。訂正後の文章では「A氏の会の“延長”」という表現がわかりにくいのだが、トラブルの発生日に中居氏やA氏など複数人で会食を行う予定があり、にもかかわらず中居氏以外の参加者が現れなかったというⅩ子さんの「事実認識」は、記事のなかにそのまま残されている。初報と違うのは、直接連絡をとったのがA氏でなく中居氏であったという点に留まるのだ。
当日になってのドタキャンは、中居氏とA氏らの間で本当に起きた出来事で、その流れでⅩ子さんは単独での訪問になったのか。それとも中居氏が「Aたちも来る」とウソをつきⅩ子さんを誘い出したのか。記事では、2つのパターンのどちらだったのかは断定を避けたうえで、「A氏の会の延長」というⅩ子さん側の表現を使っている。
今回の訂正により、フジテレビを擁護する人(というより、もともと文春や週刊誌報道に批判的な人)からは、Ⅹ子さんの事件へのフジ社員の関与はなかったことが判明し、残るのは事後対応の問題だけになったと主張する声も聞かれる。だが、文春は第2弾以降の報道でも、幹部社員A氏への追及を緩める気配はない。たとえば、Ⅹ子さん以外にも同様のケースの被害者はフジ社内に何人もいるとして、ある女性はコンプライアンス部署に相談しLINEまで見せたのに「監視カメラなど(の証拠)がないとダメ」と相手にされなかったとする社内の証言を載せている。何よりも強烈だったのは、翌週の追及第3弾。そこでは現役の女性アナが4年前、A氏が開くホテルの一室での飲み会で、中居氏ともうひとり大物芸能人の接待役に狩り出されたときの体験が語られている。
飲み会では女性アナ2人と中居氏およびもうひとりのタレントが2対2になるよう、他の参加者は途中退席し、この証言者は全裸になったタレントに寝室に招き入れられそうになったという。Ⅹ子さん自身も、A氏がタレントを接待する「ホテル飲み」に参加させられたことがあったと明かしている(女性参加者は3人いてⅩ子さんは途中帰宅したとのこと)。
中居氏をめぐる第1弾の記事は昨年末、『女性セブン』に先を越され、文春はすぐさまこれを追った。Ⅹ子さんへの連絡役をA氏と誤認してしまったのは、この後追いのドタバタでのことだった。第2弾以降の記事を読むと、文春は事情を深く知るⅩ子さんの複数の知人から情報を得るようになっている。そういった態勢がまだ整う前、情報収集が不十分な時期に記事を出したがゆえのミスと思われるが、橋下徹氏が言うように、軌道修正時には誠実に「訂正」という形をとるべきだっただろう。
問題は文春にさまざまな告発をするフジの関係者が、第三者委員会の調査を受け同様の証言をできるのか否かだ。問題がここまで大きくなってしまうと、証言に怖気づく人も出てくる気がする。今回の「誤報問題」をめぐっては、「アンチ文春」の人たちの嫌悪や反発が剥き出しになっているが、第三者の私たちはあくまで冷静にテキストに接するべきだろう。「文春砲の影響力の突出」は文春の罪というよりは、対抗する取材を放棄した他の大多数のメディアの問題なのである。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。