今週の『週刊現代』は「SNSで歪む社会」という大型特集を掲載した。「SNS選挙に翻弄される政治家たちの悲哀」(①)、「(米国人)社会心理学者ジョナサン・ハイトが警告 このままでは子どもがバカになり、自殺も増える『日本人よ、いますぐ若者にSNSを禁じなさい』」(②)、「堀ちえみ、おかもとまり、池袋交通事故遺族 ネットアンチ闘争記『私たちはこうして中傷と戦った』」(③)、「脳科学者中野信子が切り込む『なぜSNSを使っていると、普通の人が『狂暴化』するのか」(④)という4記事で構成されている。専門家などへのインタビューが中心で、ケーススタディーの取材記事ではないのだが、テーマそのものはここに来て世界の秩序をも左右するようになってきたホットな問題だ。


 上記①の記事では、昨年の東京都知事選における「石丸現象」をきっかけに、主要政党がSNS対応に右往左往する様子を描いていて、とくに「年収103万円の壁」というキャッチーなメッセージで急激に支持を拡大した国民民主党に焦点を当てている。今週の『週刊新潮』は「おかしな私立高校無償化で始まる教育崩壊」というトップ記事を載せ、少数与党が予算成立のため容認した維新の目玉政策を批判しているが、「ワンフレーズで訴えられるSNS的なメッセージ」という点で、国民・維新両党の政策には重なり合う部分がある。生活者の負担軽減という「ピンポイントのアピール」は確かに訴求力があるのだが、その実施に伴う副作用への目配りがない点でも、2つの政策はよく似ている。


 ②の米国人学者は、豪州の「16歳未満のSNS禁止」に大きく影響した本の著者。その研究によればここ10年、SNS依存による10代の精神疾患が急拡大しているという。③の記事では、誹謗中傷を受けた当事者が法的対応をとる負担の大きさが説明され、④にある脳科学者・中野氏の解説によれば、もともと人間には誹謗中傷をすることで快楽を覚える脳の仕組みがあり、その制御は容易ではないらしい。


 前回の本欄でも触れたが、このSNSの弊害がかつてなく明確に認識されたのは、昨年の米大統領選でのことだった。そしてその勝者・トランプ氏の新政権発足以後、次々発せられる「大胆な政策」は、戦後の国際秩序、自由主義陣営の枠組みをも揺るがす波紋を呼んでいる。ネットで見る専門家の言説には「一見デタラメに見える裏にあるトランプ氏の深謀遠慮」を解説するものも見られるが、私はただ「ほんまかいな」と思うだけだ。そんななか、つい最近見つけた米国メディアのウェブ記事は、私の疑念を絶望的なまでに裏付けるものだった。


 トランプ氏の初回の当選前、2016年の古い記事なのだが、その昔、ゴーストライターとして40歳前のトランプ氏に18ヵ月密着、ベストセラーとなる氏の自伝(邦題『トランプ自伝――不動産王にビジネスを学ぶ』)を執筆したジャーナリスト、トニー・シュウォルツ氏のロングインタビューである。


 それによれば、トランプ氏が有力な大統領候補になった段階で、シュウォルツ氏は強い危機感を抱いたという。「トランプが大統領にでもなって核ミサイル発射コードを手に入れたなら、文明社会は崩壊しかねません」「トランプにひとつでも政治的主張があるか疑わしい(略)それよりも問題なのは異常なほど衝動的で自己中心的な性格だ」「(彼は)どんな話題でも5分も集中できないのです」「トランプが成人してから本を1冊でも最後まで読み通したことがあるか、心底疑問です」……。氏は長期間間近に見たトランプ氏の人格を徹底して否定的に語っている。


 集中力がなくすぐイライラしてしまうトランプ氏の聞き取りにほどなく行き詰まり、その代わり本人同意のもと四六時中トランプ氏の傍らに寄り添って、電話の会話まで盗み聞きする方法で氏はこの本を書き上げた。そんな彼によれば、トランプ氏の願望は「マスコミで注目を浴びたい」というただ一点。あまりに自己中心的で虚言癖もあるその性格を少しでも愛すべきキャラクターに感じさせようと、氏は全編、トランプ氏の描写を脚色せざるを得なかったという。だが、そんな虚像の造形に手を貸した告白にもかかわらず、「愛すべき乱暴者」トランプ氏は結局、2度も大統領に選ばれた。SNSが誕生する前の時代には、到底不可能なことだったろう。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。