欧州医薬品庁(EMA)は米国食品医薬品局(FDA)同様、毎年1月に、前年に承認した新薬の総括レポートを公開している。最新版の『Human Medicines in 2024』には、「EMAが承認勧告した医薬品の一覧」「公衆衛生(Public Health:PH)に重要な貢献をした薬剤等」「国際的に懸念されるPHの緊急事態への主な対応」「医薬品への早期アクセスによるPH上のニーズ対応」「希少疾病用医薬品(以下、オーファン薬)」「評価の結果、否定的意見を提示した医薬品(5品目)」「既存の医薬品への適応追加」「患者の安全確保策」がまとめられている。このレポートを中心に、❶24年にEMAが承認勧告を行った新有効成分含有医薬品(NMEs:New Molecular Entities)の全体像、❷EMAによる承認審査の仕組みと財務・人員、❸日本企業関連製品を含む注目のNMEs、❹EMAによる一般市民向けの薬剤説明の文章例などを紹介する。なお、新規有効成分(含有医薬品)をFDAはNMEsとしているのに対し、EMAは“New Active Substances”と表記している。


■NMEs内訳は欧・米承認品目が最多


 24年のFDA総括レポートは「米国で世界初承認」や「画期的新薬」「法で定められた期間内の迅速承認」などを強調するものだった。一方、EUの加盟国(27ヵ国)あっての組織であるEMAのレポートは、世界初かどうかは眼中になく、疾患領域別に新薬をまとめている。


【24年のNMEsは46品目】24年にEMAから「肯定的な意見」すなわち欧州委員会への承認勧告(後述)を得た新薬は114品目、うちNMEsは46品目で、23年の各77品目、39品目から増加した。以下、NMEsの内容を見ていく。


【疾患領域】最多はがんの13品目(28%)、次いで血液が10品目(22%)。その他、循環器・神経・ワクチンが各3品目、消化器・内分泌・皮膚・感染症・ワクチン・診断が各2品目、免疫・呼吸器が各1品目だった。


【審査上の措置利用】「オーファン」指定を受けたNMEsは13品目(28%)。公衆衛生上の大きな利益をもたらす薬剤を150日以内(通常の210日以内)に審査する「迅速承認」3品目、Unmet medical needs(UMNs)に対応する有望な新薬として、アドバイスや評価の迅速化などの優遇措置が受けられるPRIority MEdicines(PRIME6品目、重篤な疾患/公衆衛生上緊急性が高い/オーファンのいずれかで承認後のデータ取得義務を課すことを条件に承認を与える「条件付き承認」8品目、特別な理由(臨床情報が収集困難、倫理的に許されないなど)に鑑み臨床データが不足していても制限付きで承認を与える「例外的状況下の承認」4品目だった。


【モダリティ】抗体医薬15品目〔33%。免疫チェックポイント阻害薬(ICI)4、二重特異性抗体(BsAb)1、抗体薬物複合体(ADC)1を含む〕が最も多く、次いで低分子~中分子薬12品目。低分子の分子標的薬(MTD)7品目、遺伝子組換え融合タンパク質・核酸医薬〔全てアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)〕・ワクチンが各3品目、配合剤・遺伝子治療・その他が各1品目だった。


【米・日の24年承認NMEsとの関係】46品目中、24年末までに❶欧・米・日3極で承認されたものが15品目(33%、うち4品目が3極とも24年承認)、❷欧・米で承認されたものが19品目(41%)で、❶❷が全体の74%を占める。❸欧・日承認と❹欧のみ承認は各6品目だった〈図1〉


【申請企業、申請国】3品目承認がAstraZeneca、Novo Nordiskの2社。2品目承認が武田、MSD、ファイザー、ヤンセンの4社。1品目承認が32社あった(アステラス、エーザイを含む)。


 申請国(申請企業所在地)は12ヵ国あり、ドイツからが10品目で最多、次いでオランダ8品目、アイルランド6品目の順だった(本社所在国と申請国は必ずしも一致しない)。


■13品目がECへの推奨勧告段階


【EUにおける新薬承認の仕組み】欧州経済領域(EEA)で医薬品を合法的に市販するには医薬品販売承認が必要だ。その手続きは、中央審査方式CP:centralised procedure)と、それ以外の方式(分散審査、相互認証、加盟国別審査)に大別される。アムステルダムにあるEMAは、CPに基づき、EEAでの販売承認を申請した医薬品の科学的評価と調整を行う。以下については、CPが義務付けられているほか、科学・技術面で革新的な医薬品、公衆衛生上の利益がある医薬品などにも使用できる。


●バイオテクノロジー製品(組換えDNA技術、遺伝子発現制御、モノクローナル抗体技術を含む)

●先端医療医薬品 (遺伝子治療、体細胞治療、再生医療製品、組織工学製品など)、

●希少疾病用医薬品

●HIV(感染症)またはAIDS、神経変性性疾患、自己免疫疾患、その他の免疫不全症、ウイルス性疾患、糖尿病の治療を目的とした医薬品


 評価はヒト用医薬品専門家委員会CHMP:Committee for Medicinal Products for Human Use)が担い、「肯定的な意見Positive Opinion)」が得られた後、欧州委員会(EC)が法的拘束力のある「販売承認(MA)の決定を下す。販売国は申請企業が決め、償還その他の手続きについては該当国の規制に従う〈図2。「肯定的な意見」とは、新薬の安全性・有効性と品質を認め、「その薬をEEAの患者に販売できる」という評価にほかならない。そこで、『Human Medicines in 2024』では、この承認勧告段階のNMEsも“新薬”として扱っている(エーザイのレケンビを含む)。また、承認プロセスは一般のEU市民にもわかるよう『From laboratory to patient』にまとめられている。


【EMAの財務、人員】23年のEMA年報(公表されている最新版)によると、23年の収入は約723億円で、うち約609億円(84%)が(ヒト用および動物用医薬品を含む)手数料その他の収入だった。一方、常に連携関係にある加盟各国の規制当局NCA:National Competent Authority)に対する支出として、EMA全体で「科学的アドバイス」に約39億円、「販売承認」に約26億円、「年間手数料」約63億円を支払っている。また、EMAのスタッフ数は982名(23年12月現在)で、女性が639名(64%)。雇用形態は一時雇用664名と契約雇用216名(典型的契約期間は5年間、更新・短縮可)で9割を占めるほか、加盟国NCA等から出向した専門家が48名(5%)いる。


 なお、手数料等は『欧州議会および理事会規則 2024/568』(25年1月適用)に事細かく定められている。例えば、申請者が新しい有効成分について「販売承認」を申請する場合は、約1億3,600万円の手数料がかかる(全規格に関する費用を含む)。そこから図2の❶報告者に約4,280万円、❷共同報告者に約3,730万円、医薬品の安全性リスクを評価するPRACの担当者に約400万円が支払われる。なお、EUの中小企業支援政策に従い、手数料等の減額制度もある。





■3極で承認された15品目から


 3極承認薬について、最初に承認した地域を見ると、米国が11品目、日本が4品目(ベオーバ、ミチーガ、アレモ、ビロイ)で、欧州はゼロだった。


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 ECによる「販売承認」後のヒト用医薬品(Medicines for human use)は、EMAの専用サイトで検索できる。検索結果でまず表示される「Overview」は一般市民でも理解可能であり、「用法・用量」「作用機序」「メリット」と「リスク」、「安全かつ有効な使用のための対策」とともに、「EUで承認された理由」の項目があることが特徴だ。また、同じ画面に、専門家向けの「製品情報」「評価履歴」から「(EMA内での)関連ニュース」へのリンクまで一括表示される。「Overview」と「製品情報」は英語以外にEU加盟国の公用語版もある。


 以下にまず、24年末の時点で、欧・米・日全てで承認されたNMEsのうち、日本企業関連製品およびEMAが「公衆衛生に重要な貢献をした薬剤(EMA注目薬)」として挙げた品目などを紹介する〈表1〉

※各剤について【一般名/販売名(日本で承認済みの品目はカタカナ表記), 企業】の順に記載。一般名のカタカナ表記はKEGG DRUGデータベースに拠る。〔 〕内は利用した特別措置その他の参考情報。各薬剤の説明は、一般市民の理解も考慮に入れたEMAの記述を紹介する。

 

【ゾルベツキシマブ/Vyloy,アステラス/ビロイ,同左】〔オーファン指定(10年11月)〕

説明:胃または胃食道接合部腺癌(胃または胃と食道の移行部に発生する癌の一種)の成人の治療に使用される、がんの薬。がんが局所的に進行して(近くに広がり)手術で除去できない場合、または転移性の(体の他の部分に広がった)場合に、化学療法と組み合わせて使用される。

Vyloyは、がん細胞が HER2 陰性、かつClaudin(CLDN)18.2 陽性の場合、つまり、がん細胞の表面にHER2 受容体(ターゲット)が大量に存在せず、CLDN18.2 タンパク質が大量に存在する場合に使用できる。

承認理由:Vyloy は、標準的な化学療法と併用することで、進行した胃または胃食道接合部腺がんの患者の病気の悪化を遅らせ、生存期間を延ばすことが示された。標準的な化学療法に Vyloy を追加することで生じる副作用は許容範囲内と見なされた。副作用は主に胃腸症状(吐き気や嘔吐など)であり、ほとんどが治療開始時に発生した。そのため、EMAはVyloy の利点がリスクを上回ると判断し、EU での使用を承認した。

※以下、「利点がリスクを上回ると判断し、EUでの使用を承認した」旨は各薬剤とも共通のため省略

 

【フルキンチニブ/Fruzaqla,武田/フリュザクラ,同左】

説明:Fruzaqlaは、転移性大腸がん(体の他の部位に転移した大腸および直腸のがん)の成人の治療に使用される、がんの薬。既に標準治療を受けており、trifluridine‑tipiracilまたはregorafenib(大腸がんの治療に使用される他の薬剤)による治療で病状が悪化した人、またはこれらの薬剤のいずれも耐えられない人に使用される。

承認理由:承認当時、治療に反応しなくなった転移性大腸がん患者に対する治療選択肢は非常に限られていたが、研究により、Fruzaqlaはこれらの患者の生存期間を延ばすことが示された。副作用は、同じように作用する他の薬の副作用と同様であり、許容範囲内と見なされた。

 

【レカネマブ/Leqembi,エーザイ/レケンビ,同左・販売提携バイオジェン・ジャパン】〔承認勧告段階/EMA注目薬〕

説明:Leqembi は、アポリポタンパク質E(ApoE ε4)のコピーを1つだけ持つか、全く持たない患者のアルツハイマー病による軽度認知障害(記憶および思考の問題)または軽度認知症(初期のアルツハイマー病)との臨床診断を受けた成人患者の治療に用いる。

25年1月28日付の更新情報:ECは意思決定プロセスの一環として、CHMPに対し、24年11月のCHMPの肯定的意見採択(承認勧告)後に入手可能となったLeqembiの安全性に関する情報を検討した上で、❶承認勧告のアップデートが必要か、❷リスク最小化措置の文言が明確で、適切かつ確実に実施する上で十分か、を検討するよう要請。CHMPは検討の上、2月の総会後に回答を提供する予定。


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 以下3剤は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬である。


【クロバリマブ/Piasky,ロシュ/ピアスカイ,中外】〔中外が独自のリサイクリング抗体技術を用いて創製〕

説明:Piaskyは、PNHの成人および、12歳以上・体重40kg以上の小児の治療薬。

PNHは、過剰な溶血(赤血球の破壊)により貧血(体内に酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質であるヘモグロビンの濃度が低下)、血栓症(血管内の血栓)、汎血球減少症(血球濃度低下)および(尿中への大量のヘモグロビンが放出による)暗色尿が生じる病気。

Piaskyは、溶血および高疾患活動性に伴う症状がある患者、および補体C5阻害薬(PNHの治療に使用される別の薬)による治療で少なくとも6ヵ月間安定している患者に使用される。

承認理由:PNH 患者は症状に対する治療を生涯にわたって受ける必要がある。Piaskyは治療開始から最初の4週間は週1回、以降は4週間に1回の点滴静注で済み、自宅で自己注射する治療選択肢もある。利点として、溶血の制御と輸血の必要性の低減という点では他の C5 阻害薬と同等であることが示された。リスクを最小限に抑えるための対策を考慮すると、安全性プロファイルは管理可能と考えられる。他の C5 阻害薬からPiaskyに切り替える患者の場合、3型免疫複合体反応が予測され、考慮すべきリスクである。

 

【ダニコパン/Voydeya,アレクシオン/ボイデヤ,同左】〔オーファン/EMA注目薬〕

説明:Voydeyaは、成人のPNHの治療薬(NH患者の残存溶血性貧血に対する初の経口治療薬)。※続くPNHの説明はPiaskyと共通。

Voydeyaは、ravulizumabまたはeculizumab(他のPNH薬)による治療にもかかわらず貧血が続く患者に、これらの治療に加えて使用される。

承認理由:Voydeyaをravulizumabまたはeculizumabと併用すると、治療開始後のヘモグロビン値が上昇し、PNH 患者の貧血を軽減する効果があることが示された。Voydeyaの服用患者では副作用の発生が増加するものの重篤度は増さず、安全性は管理可能と考えられる。

 

【イプタコパン/Fabhalta,ノバルティス/ファビハルタ,同左】〔オーファン指定(20年6月)/PRIME/EMA注目薬〕

説明:Fabhaltaは、PNHの成人の溶血性貧血の治療に使用される薬。※続くPNHの説明はPiaskyと共通。

承認理由:Fabhaltaは、PNH 患者のヘモグロビン値を上昇させ、輸血の必要性を減らす効果があることが示されている。最も一般的な副作用※※は患者にとって不都合(inconvenient)ではあるものの、リスクをもたらすことはないと考えられる。

※※頻度が高い(10人に1人以上に現れ得る)副作用は、上気道(鼻と喉)感染症、頭痛、下痢。


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【トフェルセン/Qalsody,バイオジェン/クアルソディ,バイオジェン・ジャパン】〔オーファン指定(16年8月)/EMA注目薬/例外的状況下の承認/核酸医薬

説明:Qalsodyは、スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)と呼ばれる酵素を生成する遺伝子の変異(欠陥)によって引き起こされる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の一種を患う成人の治療薬。

ALSは進行性の神経系疾患で、随意運動を制御する脳と脊髄の神経細胞が徐々に劣化し、筋肉の機能喪失や麻痺を引き起こす。SOD-1遺伝子の変異によって引き起こされるALSは患者の約2%を占めている。

承認理由:承認当時、ALS 患者の治療選択肢は非常に限られていた。SOD-1遺伝子の変異が関わるALS患者を対象とした、ある研究の主な結果では28 週間の治療後も薬の効果は示されなかったが、他の測定結果では期待される作用が確認され、Qalsody が病気の進行を遅らせる可能性があることが示された。安全性について、Qalsody は脊髄の炎症など神経系に関係する深刻な副作用を引き起こす可能性があるが、適切な治療によって管理できる。




欧・米で承認された19品目から


 欧・米承認(24年末現在、日本未承認)薬の承認順は、全て米国が先行していた。

 

【ベルズチファン/Welireg, MSD〔承認勧告段階/条件付き承認/EMA注目薬〕

説明:進行性腎細胞癌および、嚢胞や腫瘍を引き起こす稀な遺伝性疾患von Hippel-Lindau病(VHL)に伴う腫瘍の治療薬。VHLを治療する初の薬剤

Weliregの利点は、VHL 病関連の局所性腫瘍患者における客観的奏効率と奏効期間、およびeverolimusと比較して腎細胞癌患者における無増悪生存期間が改善された点。最も一般的な副作用は、貧血、疲労、吐き気、呼吸困難、めまい、低酸素症。

 

【ソタテルセプト/Winrevair, MSD〔オーファン指定(20年12月)/PRIME/EMA注目薬〕

説明:肺動脈性高血圧症(PAH)成人患者の治療薬。

PAHは、肺の動脈の血圧が異常に高くなり、長期にわたる、衰弱性で生命を脅かす稀な病気。Winrevairは、PAHの成人の身体活動能力を改善するために使用される薬。PAH患者は肺動脈の血圧が異常に高く、息切れや疲労などの症状を引き起こす。Winrevairは、身体活動が中程度または著しく制限されている患者(それぞれ WHO 機能分類II または III に相当)に、他の PAH 薬と併用して使用される。

承認理由:主な研究では、Winrevair は PAH 患者の身体活動能力を改善することが示された。安全性について、Winrevair の副作用は管理可能と考えられた。ただし、心血管の安全性(心臓または血液循環への影響)に関するデータは限られており、より多くのデータが必要。

 

【フィダナコゲン エラパルボベク/Beqvez,ファイザー】〔旧販売名Durveqtix /PRIME/条件付き承認/EMA注目薬/遺伝子治療薬

説明:Beqvezは、重度または中等度の血友病 B の成人の治療に使用される薬。

血友病 B は、第IX 因子(出血を止めるために血栓を作るのに必要なタンパク質)の欠乏によって引き起こされる遺伝性の出血性疾患。

この薬は、第IX 因子に対するインヒビター(体の自然な防御によって生成されるタンパク質)を発現しておらず、薬に含まれるウイルスに対する抗体を持っていない成人に使用される。「遺伝子治療製品」と呼ばれる先進治療薬の一種。これは、遺伝子を体内に送り込むことで作用するタイプの薬。

承認理由:承認当時、重症の血友病 B 患者の治療選択肢の大半は、生涯にわたる第IX 因子補充療法による頻繁な治療だった。

単回点滴で投与されるBeqvezは、少なくとも2年間の出血予防に効果があることが示され、ほとんどの患者が予防的第IX 因子補充療法による治療を中止できるようになった

ただし、主要研究で、一部の患者にはBeqvezが十分に効かなかったため、予防的第IX 因子療法を再開しなければならなかったことが指摘されている。さらに、Beqvezの効果がどのくらい持続するかについては不確実な点もある。Beqvezの安全性プロファイルは許容範囲内であると考えられた。

 

【弱毒化チクングニアウイルス株/Ixchiqヴァルネヴァ】〔迅速承認/PRIME/EMA注目薬〕

説明:Ixchiqは、感染した蚊を介してヒトに伝染するチクングニアウイルスによって引き起こされる病気から、成人を守るためのEU初のワクチン。

 チクングニア熱は多くの(亜)熱帯諸国で風土病となっており、繰り返し流行を引き起こしている。気候変動により、これまで感染を免れていた地域にも広がる可能性がある。

承認理由:承認当時、チクングニア熱を予防するワクチンはなかった。そのため。Ixchiq はUnmet medical needsに対応するものだった。

Ixchiq は、成人のチクングニアウイルスに対する免疫反応を引き起こし、ワクチン接種後少なくとも2年間は持続する。

承認当時、Ixchiq がチクングニア熱を予防することを示すデータはなかった。しかし、ワクチンによって誘発される免疫反応は、ある程度の予防効果をもたらすと期待されている。

Ixchiq を販売している会社(Valneva)は、チクングニア熱ウイルスが蔓延している地域で研究を行い、ワクチン接種を受けた人を Ixchiq がどの程度この病気から予防するかを評価する。安全性について、このワクチンには、弱毒化生ウイルスを含む他のワクチンで見られるのと同様の副作用がある。




欧・日で承認された6品目から


 欧・日での承認薬は、1品目(アウィクリ)のみ欧州が先に承認され、他の5品目は日本先行だった〈表3〉

 

【rADAMST S13/Adzynma,武田/アジンマ,同左】〔オーファン指定(08年3月)/例外的状況下の承認〕

説明:Adzynmaは、ADAMTS13遺伝子の変異(変化)によって引き起こされる遺伝性疾患である先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)の小児および成人の治療に使用される薬。

この疾患の患者は、全身の小血管に血栓が形成され急性発作を起こす。血栓は臓器への血流を妨げ、損傷を引き起こす可能性がある。凝固が増加すると血液中の血小板が不足し(血小板減少症)、出血のリスクが高まる。患者はまた、皮下に紫色の斑点として現れる小さな出血を起こす(紫斑)。cTTPはまた、体が赤血球を生成するよりも速く赤血球を分解し、赤血球レベルを低下させる(細小血管障害性溶血性貧血)。症状には、疲労、衰弱、息切れなどがある。

承認理由:承認当時、cTTP 患者に満足のいく治療法はなかった。Adzynma は、欠損している ADAMTS13 を、人工的に作られたこの酵素の類似バージョンで置き換えることを目指している。研究データでは、この薬が急性TTP 発作の予防に有効であるという十分な証拠は得られていないが、実験室内での基礎研究、薬が体内でどのように作用するかについての知識、および Adzynma を服用している患者の cTTP 症状の軽減を示すデータから得られる情報があり、これらはすべて、治療が効果的である可能性を示している。Adzynma の副作用は許容範囲内であると考えられた。

承認後のアクション:Adzynma は「例外的な状況」下で承認された。これは、cTTP 患者における急性TTP イベントの数が非常に少ないため、Adzynma に関する完全な情報を入手できなかったためである。企業は Adzynma について、さらなるデータおよびAdzynma の安全性と有効性に関する 3つの研究の完全な結果を提出する必要がある。当局は毎年、入手可能になった新しい情報を検討する。

 

【エフアネソクトコグアルファ/Altuvoct, Sobi/オルツビーオ,サノフィ】〔オーファン指定(19年6月)/PRIME〕

説明:Altuvoctは、血友病 A の成人および小児の出血を予防・治療するために使用される薬。

血友病 A は、血液凝固を助けるタンパク質である第 VIII 因子の欠乏によって引き起こされる遺伝性の出血障害。

承認理由:Altuvoct は、血友病 A の成人および小児の出血を予防することが示されている。

承認当時、承認されているほとんどの第 VIII 因子予防治療では、2~4日ごとに注射する必要があった。Altuvoct は週1回投与のため、患者にとって利便性が高く、治療継続に役立つ可能性がある。

Altuvoct による“オンデマンド治療”は出血エピソードの治療に有効で、そのほとんどは1回の注射で治まる。Altuvoct は、手術を受ける患者の出血予防にも有効である。

副作用は、他の第 VIII 因子医薬品の副作用と同様で、管理可能と考えられている。第 VIII 因子の作用機序から、血栓塞栓症(血管内での血栓の形成)のリスクは低いと考えられる。Altuvoct を販売している会社は、このリスクについてさらに調査する予定。

 

欧州のみで承認された6品目から


 欧州のみで承認された6品目中5品目が抗体医薬だった〈表4〉

 

【セルプルリマブ/HetroniflyHenlius〔オーファン指定(22年12月)/Henliusは上海に本社を置く中国系の企業〕

説明:Hetroniflyは、肺内で広範囲に増殖した、または体の他の部位に転移した小細胞肺がん(SCLC)すなわち進展期 SCLC(ES-SCLC)で、これまで治療を受けていない成人の患者に使用される、がんの薬。Carboplatinおよびetoposide(化学療法薬)と併用して投与される。

承認理由:承認当時、長期予後が悪いES-SCLCの生存期間を延長する追加治療が必要とされていた。主要研究の患者がEUでHetroniflyによる治療を受ける患者をどの程度代表しているかについては不確実性があるものの、この薬は、以前に治療を受けたことのないES-SCLCの成人に化学療法と併用した場合、生存期間を延長する効果があることが示された。

安全性プロファイルは、同じクラスの他のがんの治療と同様。免疫系の活性に関連する副作用の一部は重篤になる可能性があるものの、管理可能と考えられている。

 

【ビロベリマブ/Gohibic, InflaRx〔例外的状況下での承認/EMA注目薬〕

説明:Gohibicは、SARS-CoV-2(COVID-19を引き起こすウイルス)によって引き起こされる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用される薬。

ARDSは、肺の腫れにより炎症が起こり、肺胞に水分がたまり、重度の呼吸困難を引き起こす。

Gohibicは、コルチコステロイド(炎症を抑える薬)と〔体外式膜型人工肺(ECMO、肺と心臓が正常に機能していない人を助ける生命維持装置)の有無にかかわらず〕機械的人工呼吸器による治療(機械による呼吸補助)を受けている成人に使用される。

承認理由:主要研究では、Gohibicを投与された患者の方がプラセボを投与された患者より死亡率が低かったものの、この差は統計的に有意ではなかった。しかし、追加の分析と裏付けデータから、GohibicがSARS CoV-2感染によるARDS患者に有益である可能性が十分あることが示唆されている。また、安全性プロファイルは、治療選択肢が限られている重篤な患者集団では許容できるものと考えられる。

承認後のアクション:「例外的状況下での承認」となったのは、承認時点ではCOVID-19パンデミックが下降局面にあったことから、症例が少なく、Gohibicに関する完全な情報を得ることができなかったためである。

この薬を販売する企業は、COVID-19やその他のウイルス性および細菌性肺感染症によって引き起こされる中等度から重度のARDS患者を対象とした追加研究の結果を提出するとともに、Gohibicの有効性と安全性に関する新しい情報についても毎年更新情報を提供する必要がある。


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 EMAが販売承認または承認勧告を行ったNMEsはこれまでの記事で取り上げた日本や米国(FDA)の承認薬との重複も多いため、今回は「一般市民向けの新薬説明」の具体例を紹介した。各薬剤のEUでの承認理由を示すにあたり、利点とリスクに必ず触れており、判断や納得の材料になりそうだ。


 2024年の総括レポートでFDAは、INNOVATION(革新)、PREDICTABILITY(予見性)、ACCESS(新薬の利用可能性)をキーワードにしていた。


 一方、EMAの2023年報でExecutive DirectorのEmer Cooke氏が掲げたのは、Cancer medicines(がんの薬)、Data-driven medicine regulation(データに基づく医薬品規制)、Transparency(透明性)、Communication(コミュニケーション)だった。FDAが一国の政府機関であるのに対し、EMAは政府間組織(IGO)であるため、より透明性(情報公開)やコミュニケーション(情報発信)に力を入れている印象を受けた。



2025年2月10日現在の情報に基づき作成

同じNMEs薬剤が国内承認されている場合でも効能・効果、用法・用量等は必ずしも同じでないため、必ず医療用医薬品添付文書等を確認のこと

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。