先週は目次しか見なかったが、少し気になっていた前号の『週刊現代』記事に改めて目を通してみた。「格差社会の頂点からの眺めはどうだ? 大金持ちが見ている世界」という大型の特集。表紙は衣類通販企業ZOZOの創業者・前澤友作氏の写真である。ただ一読しての感想は正直期待外れ、私個人の関心事がピンポイントすぎたせいもあり、肩透かしに終わった感じだった。


 特集の先頭を飾るのは「『仕事とカネ』の人生哲学」という成功者たちの「お言葉」集。この記事に「シン富裕層向けビジネスは花盛り」というレポートが続き、特集を締めくくる最後の6本目は「ベストセラー作家橘玲が伝授 『お金持ちになる人たちのたった一つの「共通点」を教えましょう』」という記事だった。何のことはない、大昔からビジネス誌の定番であり続ける「成功者に学びたい人々」に向けた特集号だった。


 私が読みたかったのは、表紙になっていた前澤氏の考えを掘り下げる記事。4本目に配された氏の独占インタビューはしかし、彼が最近始めたというゴルフ大会の新機軸「前澤杯」の紹介に終わっていた。前澤氏に関しては、電気ガス料金の契約者にポイントならぬ株を付与してゆく「カブ&ピース」の新事業が話題だが、私が興味を抱いたのはそのようなニュースにまつわることでもなく、2月に報じられた氏のⅩ投稿のことだった。起業家の存在は尊いか否か、というⅩ上のやり取りに反応し「起業家は、自己中で欲深くて自己顕示欲の塊で非常識で周りの人に迷惑かけまくって自信過剰で傲慢で、僕はもちろん、周りの起業家見渡してもおかしな人ばかりで、尊いとか素晴らしいなんて全く思いません」と前澤氏は発信した。


 また今月には、財務省解体デモに関連して、デモやストライキといった手段より選挙や株主総会での意思表示のほうが社会を変えるのに合理的(効果的)と投稿し、これに批判が集まると「お金持ちや経営者にレッテルを貼って勝手に仮想敵にするのではなく、賛同者にしてしまった方がより強くなる」「お金持ちで資本家だからって理由で勝手に敵扱いされてる気がして悲しい」「僕は皆さんの味方ですよ。皆さんと同じ日本を良くしたい」などと呟いている。


 これらのコメントの背後にある氏の真意は何なのか。私個人は財務省解体デモに共感を持たないし、前澤氏の「株配り」の事業にも興味はないのだが、こういった一連の発言に昨今の富裕層にありがちなホリエモン的「上から目線」はなく、功利主義的とも言えない社会への眼差しを感じ取り、『週刊現代』の特集には、そういった側面から彼の社会観を掘り下げてほしかったが、編集部の関心事はどうやら違っていたらしい。


 一方、今週の『週刊文春』は、「私のトランプ攻略法 日米賢人7人」と銘打って、トランプ氏の元側近や日本の外交関係者らのインタビューをまとめている。こちらの読後感もほろ苦いものだった。登場する論者のほとんどは、この気まぐれな独裁的トップリーダーにいかに気に入られ、自分たちの被害を極小化するか、そういったトランプ政権への「取り入り方」を指南するものだった。


 冷静に考えれば、我々人類は300年もさかのぼれば、民主主義の欠片もない時代に生きていて、有史以来「強者による理不尽」はあって当たり前、それを前提にした立ち居振る舞いこそ、人生に必須のものだった。しかし、21世紀にもなると、あまりに過度な理不尽は耐え難い。半世紀余り前、女子体操の世界女王だった旧チェコスロバキアのチャスラフスカは、旧ソ連に屈従する自国政権に異を唱えて不遇の半生を送ったが、冷戦崩壊後、そのような意志を貫いた選択を「自尊心があるから」と説明した。


 理不尽をあっさり受け入れる生き方もそれに抗う生き方も、選択した当事者にはそれなりに納得感があるだろう。問題はどちらにも振り切れない中途半端な多数派だ。内心では不満を覚えつつ抵抗する勇気もない。世界の知識階層にいま広がるのは、そういった予想だにしなかった「前時代的境遇への逆行」に直面する現代人ならではの苦悩のように思える。


………………………………………………………………

三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。