3月9日(日)~3月23日(日) 大阪府立体育館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『取組動画』」など)
新横綱の誕生で湧いた大阪場所だったが、9日目で4敗目を喫して無念の途中休場に追い込まれた。11日目を終えて大関大の里、平幕の尊富士、高安の3人が2敗で並んだが、終盤に息切れする高安がまたも賜杯を逃し、大関がV3を果たした。平幕下位が奮闘したが、最後は番付上位が面目を保った格好になった。
<五月場所は綱取りがかかる>
口だけ横綱、重圧に屈す
先場所、気迫の連勝で巴戦を制した豊昇龍は、琴桜を抜き、ライバルだった霧島よりも早く最高峰に到達した。新横綱の優勝なら稀勢の里、照ノ富士に次ぐと期待されたが、初日に早くも土が付いた。小結阿炎のもろ手突きを警戒して選んだ張り手が全然通用しなかった。阿炎は委細構わずもろ手突きで横綱を後退させ、一気に突き出した。
<初日/豊昇龍―阿炎>
初日で緊張し相性も悪かっただけに、この1敗は想定内だった。その後は不安定ながらも3連勝、これで乗って行けるかと思われたところで若さが出た。5日目の千代翔馬(前頭2枚目)戦。母国では後輩にあたる横綱は、自己最高位で張り切るモンゴルの先輩を過度に意識したのが間違いの元だった。
制限時間前の仕切りからガンを飛ばして燃え上がる横綱。気負い過ぎを嘲笑うかのように挑発する千代翔馬の睨み合いが繰り返された。これはまずいと誰もが感じた立ち合い、右に変わった相手に土俵際まで追い込まれて2敗目。「横綱に、変わるんだ」と取組後に愚痴ったが後の祭り。
<5日目/豊昇龍―千代翔馬>
千代翔馬は先場所、某人気力士に勝っても館内から声援がなく、「人気がないなぁと痛感した」と嘆息したが、当たり前である。立ち合いの変化、けたぐり、張り手と飛び道具を駆使する異能のスタイルは、翔猿同様、大衆の支持は得られない。横綱相手の変化は格下にとって許容されるが、それを誇ってはいけない。美しくない相撲は拍手をもらえないのだ。
大の里、高安に足りないもの
大の里は、大関在位3場所目で早くも3度目の賜杯。近年稀に見る好成績でダメ大関たちと一線を画すが、豊昇龍の昇進即休場で、綱取りのハードルは上がった。強烈な立ち合いで一気に押し切るスピード相撲を続けていけば頂点は自ずと見えてくるが、早めの勝負にこだわるあまり、安易な引きも目立つ。馬力だけで勝つ相撲はいずれ飽きられる。プロの力士として勝ち急いだりせず、技能相撲も見せてほしい。
高安は終盤に弱い汚名を今回も返上できなかった。この人も苦し紛れで繰り出す引き技が墓穴を掘った。13日目の若元春戦は珍しく速射砲の突っ張りを見せて快勝した。それだけに翌日の美ノ海戦での無意味な「はたき込み」は、悔やみきれない。前日の勢いのままに取れば元大関が勝てない相手ではない。このところ、途中休場しては再出場する場所が続いていたが、体調がよければここまで勝てる自信は戻った。悲劇の力士と同情を買わないよう、自分をもっと厳しく律して栄冠をつかんでほしい。
<13日目/高安―若元春>
堕落した琴桜、「次」逃した大栄翔
14勝1敗の初優勝は記憶から剥がれ落ちた。恵まれた体格と稽古環境。角界のサラブレッド琴桜は温室育ちがアダになっている。先場所の5勝10敗で、エリート力士の面影を完全に喪失。辛うじてカド番は脱したが、身体を痛めつけてブヨブヨ体型をマッチョに変えるか、滝の勤行にでも行って根性を叩き直すかして体質改善、心機一転を図らない限り、琴奨菊、御嶽海、正代など駄目大関の系譜に連なること必定である。
終盤に2勝3敗と星を下げたのが大栄翔。関脇在位が長くなり、大関レースの話題になっても忘れられる存在になっていた。今場所は少し相撲が変わっていた。5日目の若元春(前頭筆頭)戦。互いに突っ張って主導権争いを展開、相撲巧者の若元春は手数を出しながらも距離を取って押し相撲を警戒する。大栄翔は、先場所までなら足を出しながらさらに前に出て突き押しの威力を強めるところだが、慌てず騒がずじっくりと相手の動きを見ていた。
その冷静な対応にテクニシャンの若元春は一瞬やりにくさを感じたように見えた。自分同様に距離を測る大栄翔に困惑したその瞬間、大栄翔の突き落としを食らった。野球で言えば、大栄翔がチェンジアップを投げたのだ。ストレートと思ってスイングしたらボールはまだ来ていなかった。そんなシーンだった。
<5日目/大栄翔―若元春>
大栄翔は千秋楽の美ノ海(前頭14枚目)の1敗が痛恨。連続2ケタ勝利を逃し、来場所の昇進レースに繋げることができなかった。ひたむきな取り口と真摯な土俵態度で好感が持てる力士だけに、そろそろ上がってほしい。この人なら短命でも構わない。それだけの功績を残してきた苦労人である。論功行賞の意味からでも33勝の線引きに拘らず、上げてやるべきだ。
卑怯相撲の懲りない面々
中堅どころの美ノ海、新入幕の安青錦(前頭15枚目)と幕尻付近の2人が揃って敢闘賞を受賞した。美ノ海は地味だが鳥取城北―日大とエリート街道を歩んでいる。角界入りして9年目の31歳、今回の11勝は励みになる。安青錦は小兵だが外連味のない相撲を取る。ウクライナ出身で人気者の素質がある。今回気になったのは、この2人と対極にある安直でズルい相撲を取る力士が増えたことである。特に千代翔馬と外国人力士の欧勝馬(前頭8枚目)、獅司(同13枚目)はいただけない。千代翔馬は土俵の中で騒々しく、欧勝馬と獅司は巨体に似合わずいつも叩いて勝とうとしている。
<14日目/獅司―遠藤>
叩いたり透かしたりすれば、何回かは勝てるが長続きはしない。楽して勝とうというケチな根性がミエミエで、見ていて腹が立つ。阿炎(小結)や翔猿(前頭3枚目)、宇良(同5枚目)あたりは曲者の称号を得ているが、所詮は邪道。目標にすべき相撲ではない。14日目、獅司は遠藤(前頭9枚目)を強烈に押し出したが、土俵下に転落した相手に手も差し伸べずスタスタと戻って勝ち名乗りを受けていた。ウクライナ出身で土俵態度を理解していないのか、あまりにもマナーに欠けた振舞いだった。指導する親方の責任は重い。ただ勝てばいいというものではない。相手をリスペクトするのは最低限の礼儀。非常に見苦しい場面だった。(三)