藤田孝典という貧困対策のNPO代表を務める若きソーシャルワーカーがこの6月、『下流老人』という本を出し、話題を呼んでいる。内容はタイトルそのままに、高齢者の貧困問題を掘り下げたものだ。週刊誌各誌も、このところ似たテーマを頻繁に取り上げている。実際のところ、シニア世代を主たる顧客とする媒体では、見逃せない話題に違いない。
そんな中、今週の新潮はちょっと毛色の変わった記事を載せている。『誰でも危ない 「老後破産」の共通項を検証する』。一見したところ、ありがちなタイトルで、生活苦に直面する数人の事例を紹介したレポートだが、そこに登場するのは匿名のAさん、Bさんのエピソードではない。驚くことにあの往年のスター歌手・天地真理さんや人気漫画家だった柳沢きみお氏らが、赤裸々に自らの窮状を語っているのである。
2人の話はそれぞれ単独に、「あの人は今」のゴシップ記事になりそうだが、有名人「その人」の物語でなく、社会問題を描き出すドキュメントに落とし込まれると、記事のテイストはぐっと硬派になり、興味本位のタッチではなくなる。何よりも、取材者の正面からの問いかけに、対象者が腹をくくって受け答えしている印象を受ける。
記事によれば、それぞれに一世を風靡したこの2人の場合、浪費癖やアバウトな散財が“転落”の遠因となってしまった。天地さんは63歳の若さで、老人ホームにいる。月額14万円の家賃と4万円の食費はファンクラブの人たちに出してもらっており、そのほかに娘から毎週振り込まれる6000円をやり繰りして暮らしているらしい。
アイドルとしての全盛期は20代で過ぎ去ったが、その後も芸能活動は細々と継続し、比較的最近まで数十万円の月収はあった。しかし、高価な服を衝動買いするなど、若き日の浪費癖は最後まで治らず、60代前半にして蓄えはなくなってしまったという。
66歳の柳沢氏は今もなお現役だが、最盛期1億8000万円もの年収があったにもかかわらず、バブル崩壊で高額の不動産ローンに苦しむようになり、今や事務所と自宅の家賃、そしてアシスタントの人件費を払うのが精いっぱい。不動産もすべて手放してしまった。まだ1本だけ夕刊紙の連載が続いているものの、新作のオファーは皆無。連載終了後の生活のめどは立っていないという。
記事は一般人の事例も紹介したうえで、生活の「ダウンサイジング」ができずに苦しい老後を迎える人が少なくない、と警鐘を鳴らしている。要は、収入減に対応して“身の丈に合った暮らし”に軌道修正を図ることが重要なのである。
老人問題に関連したテーマでは、週刊現代が寝たきり老人のほとんどいないスウェーデンの高齢者福祉を特集している。ひと言でいえば、訪問介護をベースとするこの国の場合、高齢者は体の動くギリギリまで独力で生活し、入院に踏み切るのは本当にそれが限界に達した時。むやみに延命治療はせず、入院後ほどなく他界することが多いという。それでも国民の平均寿命は81.7歳という水準で、日本に近いレベルにある。「幸福な老後」とはいったい何なのか、考えさせられるレポートだ。
入居者の謎の転落死が相次いだ川崎市の老人ホームの問題では、ポストが現役職員による内部事情の告発を記事にまとめたほか、文春は莫大な資産を持つ「“強欲”創業者」の特集を組んでいる。
ちなみに、天地真理さんの入居する施設も、同じ経営母体のホームだという。人件費をギリギリに抑えた問題施設の実態は、彼女のいる施設でも大差ないはずだ。何にせよ、あれこれとやるせない現実を直視させられるシルバーウィークであった。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。